インフレで大失態、中銀は独立性を維持できるかPhoto:Kent Nishimura/gettyimages

 世界的な物価高騰により、主要中央銀行は金融政策の手腕を巡り、低インフレの目標を導入した1990年代以来で最大の試練に直面している。

 過去1年は、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ主要中銀にとって屈辱的な経験となった。2021年のインフレ加速について、当初は新型コロナウイルス禍後の経済再開に伴う一過性のものとの認識を示していた中銀当局者は、一転して軌道修正を迫られた。足元ではインフレ退治に向けて数十年ぶりの急ピッチで利上げにまい進している。

 米国の消費者物価指数(CPI)は7月、前年同月比8.5%上昇と、40年ぶりの水準に跳ね上がった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料、エネルギー、コモディティー(商品)価格の値上がりで、世界的にインフレが高進した。ここにきてやや鈍化の兆しが出ているものの、英国のインフレ率は10.1%、スペインは10%、ドイツは8.5%、カナダは8.1%、フランスは6.5%、オーストラリアは6.1%と、なお軒並み記録的な水準だ。

 足元の物価高騰は同じような現象に見舞われた1970年代と比較されることが多い。だが、当時との大きな違いは、現在の中銀当局者は高インフレへの防御で大きな役割を果たすことを認識しているという点だろう。1970年代は経済政策がしばしば漂流し、米国でも諸外国でも、政策担当者は自分たちの能力や物価高騰を抑制するという政治的な責務について確信を持てずにいた。

 過去30年間、各国政府は財務省の影響を受けず、中銀自らが判断して政策運営を行えるよう認める方向へと傾いた。中銀の「独立性」と呼ばれるものだ。またFRBを含め、各国中銀の間で約2%のインフレ目標を導入する動きが広がり、国民が中銀の仕事ぶりを判断しやすくなった。