電池用金属、高まる資源ナショナリズムに直面Photo:John Moore/gettyimages

――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 あと1週間もすれば、チリで新憲法案が国民投票にかけられる。同国は、世界がクリーンエネルギーに移行するために不可欠とされるリチウムの主要生産国だ。新憲法が制定されれば、チリの人々はリチウム採掘のロードマップを自ら描き直すことができる。

 たとえそうならなかったとしても、ニッケル、コバルト、リチウムなどの金属に対する世界的な需要は、台頭する資源ナショナリズムと環境保護活動というグローバルな波に直面している。これは鉱山業者にとってコスト上昇を意味し、前回の「コモディティー・スーパーサイクル」で享受したような大きな利益を再現するのは難しいかもしれない。高インフレに加え、世界各国が中国と繰り広げる資源獲得競争は、金属資源の豊富な低所得国にとってさらなる追い風となるとみられる。

 チリでは9月4日に新憲法案が国民投票にかけられる。左派のガブリエル・ボリッチ新政権が優先課題に掲げるこの憲法案が可決されるかどうかは極めて不透明だが、成立すれば採鉱はより困難かつ不確実になり、費用がかさむようになる。新憲法案には、チリ北部の広大なリチウム鉱床周辺の住民を含む先住民グループに対して、先祖代々の土地を巡る自己決定権の拡大を認め、新規プロジェクトを発足させる条件として彼らの同意を得ることが盛り込まれている。また、氷河や保護区での採掘活動も禁止される。さらには、私有地の水利権制度も改正され、チリ北部の塩田からかん水を採取して抽出するリチウム採掘に影響を及ぼすとみられる。チリは鉱物資源が豊富で、銅では世界最大、リチウムで世界第2位の生産国だ。銅は、ニッケルやコバルトと同様、風力タービンや電気自動車(EV)向けに大量供給されている。