負担能力のある高齢者の窓口負担は引き上げ
低所得層への配慮を行うことが前提の制度改定に

 実際、今は、一概に高齢者が「弱者」とは言い難い状況になっている。2019年度の金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」によると、1世帯当たりの金融資産保有額の平均は、20歳代が165万円、30歳代が529万円なのに対して、60歳代は1635万円、70歳以上は1314万円で、高齢者層のほうが貯蓄に余裕がある。

 公的な年金保険や健康保険が整備され、高齢者に対する福祉が充実する一方で、非正規雇用の増加など雇用環境の変化によって、若い世代でも貧困が見られるようになっている。そのため、国はこれまでのように「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心」という負担と給付の関係を見直して、「全世代型の社会保障」に転換するための法整備を行っている。今回の後期高齢者医療制度の窓口負担の見直しも、そのひとつで、75歳以上でも一定以上の所得がある人には、相応の負担を求めることになったのだ。

 ただし、2020年12月15日に閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」では、後期高齢者医療制度の窓口負担の引き上げについて、次のような留意事項が記載されている。 

 少子高齢化が進み、令和4年度(2022年度)以降、団塊の世代が後期高齢者となり始めることで、後期高齢者支援金の急増が見込まれる中で、若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の他の支出の負担も大きいという事情に鑑みると、負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより、後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題である。

 その場合にあっても、何よりも優先すべきは、有病率の高い高齢者に必要な医療が確保されることであり、他の世代と比べて、高い医療費、低い収入といった後期高齢者の生活実態を踏まえつつ、窓口負担割合の見直しにより必要な受診が抑制されるといった事態が生じないようにすることが不可欠である。(太字は筆者)

 このように、国の方針では、負担能力のある後期高齢者の窓口負担は引き上げつつも、負担増大で医療にかかれない人が出ないように、低所得層への配慮を行うことが明記されている。今回の見直しも、75歳以上のすべての人の窓口負担を2割に引き上げるのではなく、一定以上の所得がある人に限定されている。

 では、どのような人が引き上げ対象となったのだろうか。具体的に見ていこう。