紀元前6世紀から4世紀ごろ、ギリシャのソクラテス、インドのブッダ、中国の孔子など、世界中で同じタイミングで哲学者が大量発生した。「生きるとは何か」「人間とは何か」を考えることで、思考OSが論理的・理性的になっていった。次のキリスト教OSでは、人びとの考えや行動のすべてのベースが信仰になった。宗教改革やルネサンスを経て、フランス革命によって「人権」の概念が憲法に取り入れられるようになった。ところが、二度の世界大戦に見られるように、「国家のために人民が頑張るOS」の時代に突入する。

 このような大転換は、今までは数百年に一度の頻度でしか起きなかった。しかし現代では、インターネットという情報伝達技術の革新によって変化のスピードが加速し、数十年、もしくは十年に一度の頻度でOSの転換期が訪れている。

 人間はものごとを相対的にしか認識できない。そのため、現代を真に理解するためには、歴史を学び、自分とは異質なものの比較によって新しい視点を得なければならない。

◆文化人類学
◇2年間、現地の生活にどっぷり浸かる

 文化人類学をテーマとした対談のゲストは九州大学大学院人間環境学研究院准教授の飯嶋秀治氏である。飯嶋氏は文化人類学について、日本人の視点ではなく現地の視点からものごとを見て自文化との違いを見いだす学問だと説明する。

 文化人類学は、参与観察を中心としたフィールドワークと、それをまとめるエスノグラフィーという2つの手法で成り立っている。前者の参与観察とは、研究対象のコミュニティに入り、同じ言葉を話しながら2年間一緒に生活するというものだ。

 当初多かった研究は、欧米の学者たちにとって「未開」の文化を調査する研究である。だが近年では、災害被災地で地元の人がどのようなまちをつくるのかを参与観察する「ディザスター・スタディーズ」や、メーカーがユーザのニーズを調査する「ビジネス・アンソロポロジー」、金融業界を研究対象とする「ファイナンシャル・アンソロポロジー」など、社会における様々な現象が研究対象とされるようになった。現場が受け入れてくれるのであれば、どんな場所も研究対象になり得るため、現代の文化人類学は、ビジネスシーンでも展開されている。

◇文化人類学は相互理解のツール

 文化人類学の視点は、大企業とベンチャー企業との文化の違い、海外の企業との文化の違いなどを相互理解する際のツールとして力を発揮する。そう考える深井氏は、大学卒業後に大企業とベンチャー企業での仕事に携わっていた。その際、働きながら周囲の人間や組織を観察してフィールドワークをしているような感覚を持っていたという。当事者として参加しながら一歩引いた視点から客観的に理解しようとする文化人類学の素養は、仕事にも大いに役立つ。