(1)乗客の権利
宿泊代の請求は妥当とは言えない

 まず、乗客に「運行中止に伴い返金、新幹線代の上乗せに加えて宿泊代を請求する権利はあったのか?」という点から検討します。

 バスよりも頻繁に運行中止になる航空機の場合、深夜に運行中止が決まった場合、航空会社が代替便への振り替えに加えて宿泊代と食事代を負担するケースはよくあります。

 旅慣れた乗客の場合、その経験から同じような対応を期待した人がいたとしてもおかしくはないでしょう。でも、バスの場合はどうなのでしょう。

 今回のケース、法律上は乗客とバス会社との間に運送約款に基づいた契約が成立しているはずです。そして通常はバスの故障による運行中止の場合、「運賃払い戻しのみ」の約款になっていることが多いものです。

 これは、航空会社でも同じ場合があります。LCCの約款の場合は運航中止が決まった場合、運賃払い戻しだけの約款になっていることが多いのです。私が出張の際にLCCを使わない最大の理由はここにあります。

 大手の航空会社なら他の便に振り替えてくれるのですが、LCCの場合は運航中止になった場合、そこから自力で他の交通手段を探さなくてはいけません。

 例えば1万円で購入したLCCのフライトがキャンセルになったときに代わりの便を探すと、他社の当日券で5万円ぐらいの運賃のものしかないというのが当たり前です。年間何十回も出張をしていると、よく機材の故障での運航中止を経験します。その度に5万円を払うのは痛いので、私はLCCを出張では使わないのです。

 それと比較すれば、今回のバス会社は運送約款以上の対応をしています。報道によれば運行中止を指示したのは本社のようですが、約款通りに夜行バス料金の払い戻しだけの対応をしていたらもっと大きな騒ぎが起きていたでしょう。

 1万5000円を払い戻すというのは、始発の新幹線の自由席で東京駅まで戻ったとしても1300円ほど手元に残ります。深夜喫茶で時間をつぶす場合、京都駅の八条口のネットカフェが6時間で2180円です。ちょっと足が出るわけですが、もともと料金払い戻し条件だけの契約で安い夜行バスと契約をしていたことを考えれば、合理的な補償内容だと私には思えます。

 1点目の「乗客の権利」という視点で、もう一度騒動の流れを整理しましょう。まず、夜行バスのエアコンが故障して熱中症の危険が発生し、やむなく途中で運行中止が決まりました。それで京都駅という利便性の高い場所に送ってもらい、運送約款に+αで、会社の担当者判断による上乗せの補償を提示された。

 もちろん、乗客が途方にくれるのはわかります。それでも、まずはこの対応は契約と比較した条件としてむしろ良い話なのだというのが1点目に私が考えたことです。

「とはいえ、途方にくれている乗客を置き去りに逃げるというのは乗務員としてどうか?」

 というのが大半のネットの反応だと思います。

 次はこの点を、仮に私が本社のスタッフだったら?という立場で検討してみたいと思います。