これは、今回の夜行バスのケースに限りません。すべてのサービス業の現場において、リスクを回避するために「考慮しておくべき選択肢」だと思います。

 というのは、今の日本社会は平成の時代とは違って、当たり前だった市民の安全が脅かされる時代だからです。

 従業員の人権について考えると別の問題も浮かびます。詳しく報道を読み取ると、この事件が起きたのは埼玉のバス会社で、大阪方面には営業所がない会社だそうです。

 そもそも、最大手のバス会社なら近隣の営業所から代替車を手配でき、ここまでの事件にならなかったかもしれません。しかし、この会社の場合は、代替車を京都駅に派遣すると10時間かかるということで、運行中止はやむなしという状況でした。

 逆に言えば、2人の乗務員はそこから深夜、さらにエアコンが壊れたバスを運ぶ業務をすることになります。それが埼玉の営業所に戻るのか、大阪の修理工場に持ち込むのかまではわかりません。それでもバスを降りた乗客と違って、乗務員の業務は深夜1時以降も続くのです。

 古い日本人の感覚だと、「それでもサービス業なのだから、最後のひとりのお客様が納得するまで誠意をもって説明するのが当然だろう」という意見はあるのだと思います。実際、ネット上の反応はそれに近いものがあります。

 しかし本社のスタッフがそのように従業員に指示を出すのは、令和の今の働き方改革の時代には、時代に逆行したブラック企業の指示だと捉えられる話だということもご理解いただきたいものです。

「お客様には最後まで向き合え」
「それが終わったら、本社までバスを戻すように」
「エアコン効かなくて暑いだろうから熱中症には気をつけて帰ってきて」

 みたいな指示で働かされる職場を想像したらどうでしょう。

 もしも、明け方近くまで顧客対応を強いたうえで、残暑の残る中、日中の高速道路を運転して故障バスを輸送させる会社があったとしたら。

 私は、それこそブラックもブラックの絶対働きたくない職場だと思います。