この件を父親に問いただしてみても、「そんなバカなことがあるか。何かの間違いだろ。うまくやっといてくれ」と笑い飛ばして終わり。母親を早くに亡くし、高校時代から、父ひとり子ひとりで生きてきた息子としては、慕い尊敬する父親を強くとがめることもできず、渋々300万円もの飲み代を振り込むことに……。

 銀座のクラブの一件から1カ月半後、今度は警察からAさんの携帯電話に連絡が入った。父・Bさんがコンビニで、商品のおにぎりやサンドイッチを食いあさり、所轄署に連行されたというのだ。店長からの電話で警官がコンビニに駆けつけたとき、Bさんはトイレに立てこもり、テレビドラマのワンシーンのような捕り物劇が展開されたそうである。

 実はBさんはその前にも問題行動を起こしていた。自宅近所の敷地内に無断で立ち入ったり、他人の家の玄関のチャイムを連打したり、出てきた相手へインターホン越しに刑事まがいのパーソナルな質問を繰り返したり……。

 身柄を引き取りに警察へ出向いた息子は、父親の肩書と、(ウソも方便で)精神疾患の兆候があり通院中である旨を説明し陳謝して、コンビニからの被害届もどうにか取り下げてもらうことができた。

「父は普通ではない」――そう確信したAさんは、妻子を説得。しばらく自分の家に、父親を同居させることを決めたのだった。

同居は失敗、子どもの受験を口実に健常者向け老人ホームへ

 同居が始まって1週間後。Aさんが帰宅すると、妻と、娘の家庭教師の女子大生が2人で泣き崩れているではないか。なんと、父親に性暴力を受けたというのである。まさかと耳を疑ったが、あり得ない話ではないと思ったという。母親が早逝して以降、父親は女性に対する関心というか執着心が旺盛だったからだ。

 衝撃の事件から2週間後。娘を連れて実家に帰るという妻を何とかなだめたAさんは、長女の受験を口実に父親を言いくるめて、富裕層向けの老人ホームへ入所させた。しかしこのとき、父親のBPSD(認知症の周辺行動)を伏せて老人ホームとの入居契約を交わしたのがまずかった。

 老人ホームへ入って3日とたたないうちに、施設での父親の行動が問題になり、退去勧告がなされたのだ。施設職員への暴言暴行、他居室への不法侵入、共用品の窃盗……。Aさんから筆者のところに相談の電話が寄せられたのは、これがきっかけだった。