まず、安倍元首相の国葬問題だ。

「なぜ安倍元首相の葬儀を国葬にしたのか、9月8日、岸田首相が閉会中審査で説明した内容がやはり釈然とせず、私の地元では、経緯、経費ともに納得できないという声が強まった気がする」(自民党安倍派中堅議員)

「イギリスでエリザベス女王の国葬が行われることになり、どうしても比較されてしまうので、余計に批判を招くことになる」(自民党菅グループ中堅議員)

 自民党内でも、しかも当の安倍派の国会議員からも、このように疑問や懸念の声が上がっている。

 総理・総裁派閥の岸田派は、衆参合わせて43人の党内第4派閥にすぎない。安倍派(97人)、茂木派(54人)、麻生派(51人)の3大派閥、とりわけ最大派閥である安倍派の協力がなければ政権運営はおぼつかない。

 加えて、今年は、10月に物価高対策として総合経済対策を取りまとめ、12月には防衛力強化に向け、国家安全保障戦略、防衛の大綱、中期防衛力整備計画の改定や策定が待ち受けているため、積極財政派や保守派の議員が多くを占める安倍派の協力は不可欠になる。

 振り返れば、岸田首相は、1年前の自民党総裁選挙で勝利して以降、「聞く力」と「丁寧な説明力」だけを武器に支持を得てきた宰相だ。それが一気に崩れたのが国葬問題で、まさに安倍元首相の呪縛によるものと分析せざるを得ない。

 ちなみに、イギリスの国葬は、王室や特別な功労者を対象に行われ、議会の承認が必要だ。

 歴代の国王や女王のほか、万有引力の法則を発見した科学者のニュートン、トラファルガー海戦でフランスのナポレオン艦隊を退けたネルソン提督、そして、チャーチル元首相が死去した際、実施されている。

 それとは別に、女王の同意だけが要件の儀礼葬と呼ばれる国葬に準じた葬儀があり、ダイアナ元皇太子妃やサッチャー元首相、それに王室でもエリザベス女王の夫で、去年亡くなったフィリップ殿下の葬儀はこの方式で執り行われている。

 つまり、イギリスの国葬には、議会の承認という民主主義の縛りが効いているのだ。ここが安倍元首相の国葬とは大きな違いである。