そうした中、バイデン大統領は激戦州の一つ、ペンシルベニアを訪れ、トランプとその岩盤支持層を名指しし、「彼らがアメリカの平等と民主主義を脅かしている」(9月1日)と批判した。

 演説では常に「協調」や「結束」を強く訴えてきたバイデン大統領が、この演説で明確にトランプ氏とその岩盤支持層という「敵」を作り出したことは筆者には驚きであった。

 一方のトランプ氏も、すぐさまペンシルベニアに乗り込み、「バイデンこそ国家の敵。悪質で、憎しみに満ち、分裂を生む」(9月3日)と糾弾した。

「バイデンが進める電気自動車は運転に費やせる時間より、充電する時間の方が長い。そのバッテリーもすべて中国製だ」

 いつものトランプ節でバイデン政権が進める気候変動対策も全否定してみせた。

 アメリカでは、内戦の研究家、バーバラ・ウォルター氏の著書『How Civil Wars Start』(内戦はどのように始まるのか)がベストセラーになり、また、カリフォルニア大学のグループが行った調査では、国民の半分以上が数年以内にアメリカで内戦が起きると回答したことが明らかになったばかりだが、これらの舌戦は、アメリカ社会の「分断」や「分裂」が一段と深刻化していることをうかがわせるものだ。

 中間選挙まで2カ月を切り、バイデン大統領の支持率は、「インフレ抑制法」などの可決によって40%台まで回復した。前述したペンシルベニアでの演説では、テレビ局に通常の番組編成の変更まで依頼し、ゴールデンタイムに自身の演説を放送させるなどして、なりふり構わず選挙対策を講じている。

 それでも中間選挙での民主党の劣勢予測は変わっていない。バイデン大統領は国内経済の立て直しという目に見える実績づくりに挑みながら、トランプ氏の呪縛とも戦っている。