都合のいい外国人労働者はいない
見切りをつけられる日本

 そのように日本の立場が低下していくと、前述した人権保護と免税のような「駆け引き」をする理由もなくなる。

 つまり、これまで遠慮して封印していた、自国民への暴力やハラスメントという過去の問題を蒸し返すのだ。「なぜそんなことを?」と思うかもしれないが、中国を見てもわかるように、経済成長を果たした国はナショナリズムが急速に盛り上がるのが常だからだ。かつて日本で屈辱的な仕打ちを受けて、帰国したベトナム人が増えていけば当然、「被害回復」の声は強くなっていくだろう。

 実際、ベトナムでも近年そういうムードが高まっている。21年3月、ベトナム政府の監査院が12~18年の期間を対象に、労働者の海外派遣を担当する政府機関の取り組みを調べたところ、「海外で働く労働者の正当な権利と利益に適正に関心を払っていない」という結論になった。もちろん、これは最もベトナム人が働いている「日本」を念頭に置いたものだ。

 筆者は今年1月、『ベトナム人技能実習生リンチ事件が「第二の徴用工問題」になりかねない不安』という記事を執筆した。

 現在、日本中の職場で行われているベトナム人への人権侵害、低賃金労働が時間を経過してから日本・ベトナム間で大きな問題になるのではないかという私見を述べさせていただいたのだが、9カ月を経た今の状況を見て、その考えはさらに強くなった。

 韓国や中国といまだにトラブルになっているように、日本人は「自国民が嫌がる低賃金重労働を外国人にやってもらう」ということがあまり上手ではない。

 ベトナムの人々とこれからも良好な友好関係を続けていくためにも、いい加減そろそろ「奴隷」のように低賃金でこき使える外国人労働者など、この世界にはどこにも存在しない、という現実を日本人は直視すべきではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)