ここからは、引っ越して家賃が下がることを前提に、年金受給が始まる65歳以降の家計を試算していきます。

 Dさんの65歳からの年金受給額は146万円程度と記載がありますが、60歳まで働けば手取額で155万円前後まで増えると思われます。

 支出の面では、転居によって住居費が半額になることを試算に反映します。前述した248万8000円から64万8000円を差し引くと、毎年の支出額は184万円です。

 年間の収入が155万円、支出が184万円ですから、年間の赤字額は29万円です。65歳時点の金融資産額は1217万円ですから、毎年29万円を取り崩すと、約42年後(Dさんが107歳)まで赤字額をカバーできます。

 現代人の平均寿命(女性は87.6歳/2022年時点)を考慮すれば、十分余裕があるといえるでしょう。好きなミュージカルなどの支出額をもう少し増やしてもよいと考えられます。

 相談文に「今の職場でできるだけ長く働きたい」と書いていただいたように、もし60歳を過ぎても元気に働くことができれば、さらに安心度が高くなります。

 一方で、「あと7年も仕事を続けるのはつらい」と、早めのリタイアを考えるようになった場合は、逆に老後の生活は厳しくなってしまいます。

長く働くほど老後も安心だが
60歳よりも早く退職すると…

 もし数年早く退職すると、たとえ家賃を半額に抑えたとしても、家計収支が多額の赤字になる期間が長期化します。65歳以降の老後資金に不安が残ることになりかねません。

 やや厳しいことを述べてしまいますが、老後を安心して過ごすためには、60歳までは頑張って働いた方がよいでしょう。

 何しろ、たった1年早めて59歳で退職する場合でさえ、引っ越しを済ませていても、家計はかなりギリギリになってしまいます。

 55歳で転居した後、仕事を続けている間は「年間収入は408万円、年間支出は156万円(220万8000円-64万8000円)」のペースを維持できます。年間黒字額は252万円です。

 一方、59歳で退職した場合、59~60歳の1年間は収入がゼロになります。また、国民健康保険の負担増や住宅手当の終了によって、前述した184万円まで支出額が増えます。すなわち「年間収入は0円、年間支出は184万円」となり、一気に年間184万円の赤字に転落します。