業務を依頼する側も、単なる一部の開発を行ってくれる労働リソースとしてしか見ていません。本当は、こうした人たちにもプロダクトづくりや事業を成功させるというところに一緒にコミットしてもらう方がよいのですが、現在の情勢ではなかなか、それを実現できるような仕組みは作りづらいのです。

 しかしDAOなら、自分が貢献したいと思ったものに貢献し、その結果がトークンのかたちで残ります。すると後で事業が成功すればするほど、よりリターンが大きくなっていきます。たとえ一時的で一部の関わりであっても、単に「作業を手伝う」ということではなく、DAOが成長し続けるためにどうすればよいか考え、コミットメントが高くなる傾向があるのではないかと思います。

 DAOには、「配属ガチャ」や「上司ガチャ」のようなことが起きないという長所もあります。「ガチャ」とは職種や上司を選べず、偶然の運に自分のキャリアを任せるような状況を指します。ところがDAOでは基本的には自らの意思で何かに対してコミットするかたちを取るため、こうしたことは起こりません。

DAOでは仕事に見合った
インセンティブ設計が期待される

 DAOという組織形態では、インセンティブ設計が難しいのではないかと感じています。以前の記事『「Web3」を机上論にしないために不可欠な、従来ビジネスからの発想転換』でも、Web3にまつわる投機的な、金の亡者のような人たちのうさんくさい動きについてコメントしましたが、現状ではDAOのインセンティブも投機的、経済的な側面が強く出ています。しかしお金にたかるような人たちがたくさん集まるような組織は、当然うまくいかないだろうと考えています。

 ダニエル・ピンクの書籍『モチベーション3.0』で掲げられているような新しいモチベーションの考え方では、内発的動機付けが外発的動機付けよりも優先されるべきとされていますし、むしろ外発的動機付けは、組織に所属する人のパフォーマンスやコミットメントを下げると実験でも証明されているからです。

 ただ、世の中には、皆が進んではやりたくない仕事というものもあります。現在は適切なインセンティブがないにもかかわらず、組織の中で誰かが泥をかぶってやらされているような仕事には、本来は適切なインセンティブをつけるべきです。その側面ではDAOのあり方は正しいと感じます。