組織の中だけでなく、社会全体で見ても、保育や介護などの現場で、人手がますます必要とされているのに圧倒的に人が足りないのは、過酷な労働条件に見合うだけのインセンティブがないからです。こうした事業を行う組織がDAOになることで、仕事に見合ったインセンティブ設計を求めるようになるのであれば、それはそれで正しいあり方でしょう。
社会実験的に見守りたい
DAOの日本での普及
ここまで、アメーバ経営からティール組織、そしてDAOといろいろな組織について見てきました。どの組織にも共通して見られたのが「自己組織化」というキーワードです。DAOは、自己組織化を目指す新しい組織形態として非常に面白い仕組みです。
DAOにおいてもパーパスや理念があって組織が形成されるというのは、とても面白いことです。また、こうした組織で時とともにブレが生じる部分をスマートコントラクトという仕組みで完全に自動化・機械化しているという点も、社会実験的に非常に興味深いです。
全てのトランザクションやスマートコントラクト自体も可視化され、透明化されている点も魅力的です。アメーバ組織で採用される社内通貨がDAOで実現されれば、とても面白いだろうと感じています。
ただ、現時点でのDAOは法人のかたちをとっておらず、経済的なインセンティブ設計の部分でもいろいろな実験がされているさなかです。DAOへの参加はトークン購入や、組織への貢献でトークンを得るというリスクを伴う以上、ある程度、経済的に安定している必要があり、DAOだけでベースとなる収入が保障できない懸念も残ります。
また、Web3についての記事でも述べたように、やはり投機的な目的が主となったり、それを期待する人たちが多くなったりしたときに、本来組織がどうあるべきか、組織で社会に対して実現したいことがブレてしまうようなことがあれば、もったいないと感じます。
日本的な組織や社会の考え方と今のところ必ずしも相性が良いとは言えないDAOが、日本でどう普及していくか。現在はある意味、DAOをリトマス試験紙的な存在として観察していても、面白いのではないかと考えています。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)