この装置は昔からありましたが、もともとは大型パソコンと光ファイバーがつながっている、かなり大がかりな装置でした。これを私たちは、技術革新によって手のひらサイズにすることができました。実験写真で鉢巻きのように見えているのが、脳計測装置のセンサーです。小さくすると、ウェアラブルで頭に着用でき、日常生活により近い環境で脳の働きを測定できます。スマホやタブレットに専用アプリをインストールして、データを逐次送信することもできます。たとえば、学生たちが授業を受けているとき、アーティストが舞台上で活動しているときなどでも、脳の状態をリアルタイムで知ることができるようになりました。どういうときに脳のどの部分が活動しているのかを瞬時に調べることが可能になったのです。
脳で他者との共感にもっとも関わるのが前頭葉の奥――額の中央、髪の毛の生え際の下あたりの奥です。そこで、私たちが開発した脳計測装置、脳活動センサーをつけて脳の働きを計測しよう、というのがプロジェクトの最初でした。スタートしたのは2002年10月頃です。
共感を示す脳活動の揺らぎの同期と、実際の共感状態の関係は?
こうして始まった実験から得たデータを、1つ示します。下のグラフは、親がわが子に読み聞かせをしているときのリアルな脳活動を示しています。グラフは、時間の経過とともに、何もしていない(読み聞かせをしていない)、読み聞かせをする、というプロセスにおける脳の状態を示します。
2人で会話をしているわけではないのですが、読み聞かせをしている親と聞いている子どもの脳活動データの傾きがよく似ていて、同じようなタイミングで高くなったり低くなったりしていることが分かるでしょう。
脳同士が、コードか何かでつながっているわけでも、一方が電波か何かを発信して他方が受信しているわけでもないのに、互いの脳が活発に働いているかどうかを表すデータが「同期する」。互いに連動していることが観察される。このような同期は、愛着関係で固く結ばれた親子にしか見られることはありません。読み聞かせを通して、親子の共感がそうさせているのだ、と考えるしかありません。
こうした実験結果から私たちは、「他者との共感を示す脳領域の活動の揺らぎ(上がったり下がったり)が同期することと、実際に共感していることには、何か関係があるのではないか」という仮説を立て、さまざまな追加実験を重ねていきました。