生保・損保・代理店の正念場#9

携帯電話事業と異なり、楽天グループの金融事業は好調だが、こと楽天保険グループに限ってはそうではない。特集『生保・損保・代理店の正念場』(全31回)の#9「楽天保険の泥沼(上)」では、金融庁から報告徴求命令を出されるに至った新基幹システムの迷走をつまびらかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

楽天保険グループの新基幹システム開発が迷走
金融庁による報告徴求命令にまで発展

 携帯電話事業は最悪期を脱したものの、グループ全体で5期連続赤字に陥っている楽天グループ。最近では、グループを支えてきた金融事業を再編する話題で持ち切りだが、金融事業の一角を担う保険事業が人知れず、苦境にあえいでいる。

 楽天の保険事業は、楽天カードの傘下に保険事業の持ち株会社である楽天インシュアランスホールディングス(IHD)がぶら下がっている。そして楽天IHDの下には、楽天生命保険と楽天損害保険、保険代理店の楽天インシュアランスプランニング、楽天少額短期保険が連なる。

 では、その楽天の保険事業がなぜ苦境にあるのか。理由は大きく二つある。本稿では、一つ目の無理筋の新基幹システム開発プロジェクトの迷走ぶりを深掘りしていこう。

 楽天生命と楽天損保の基幹システムは共に初期開発から40年以上が経過しており、老朽化が進んでいる。そのため全面的にシステムを刷新することになったが、業界初となる「生保と損保の一体型基幹システム開発を行う」とぶち上げた。

 だが、長期の保障を提供する生保と1年更新が基本の損保とでは、ビジネスの在り方が全然異なるため、そもそもシステムの設計思想が全く違う。しかも、システム開発を請け負ったのは、保険会社の基幹システムでの実績に乏しいシステムベンダー、シンプレクスだった。

 結果は明らかだった。2022年春ごろから開発に着手したものの、システム開発は迷走を続け、24年3月に頓挫。新たなベンダーとシステム開発を仕切り直す羽目に陥ったのに加え、10億円規模の減損も避けられない事態となっている。

 さらに、これらシステム開発の発注過程に不適切な点があったとして、4月半ばには金融庁が楽天保険グループ3社に対し、保険業法128条に基づく報告徴求命令を出すに至っている。

 こうした事態を引き起こしたのは、周囲の反対を押し切り、プロジェクトを強引に推し進めてきた、楽天IHD社長の橋谷有造氏に他ならない。

 次ページでは、新基幹システム開発にまつわる経緯に加え、橋谷氏が社内でどのような発言を行ってきたかについて詳述していこう。