それは、北朝鮮の指導者として存在し続け、その存在を世界に誇示し、世界から恐れを抱かせることだ。

 そのためには、暗殺やクーデターを避け、外国からの軍事侵攻をはねつける対米抑止が最も重要だ。なぜなら、それらの実行力があるのは、現実的には米国以外に考えにくい。日本には平和憲法があるし、韓国軍がいきなり単独で攻めることは想定しづらい。

 そうした計算をしつくした上で、中国とロシアを味方につけ、日米韓に反撃させない形で軍事的な抑止効果のみを得るように動く――金正恩総書記の頭には、こうしたアルゴリズムが完璧にできあがっているはずだ。

 今の時期に日本上空を通過する弾道ミサイルを撃つのは、日米を含む西側諸国と、中露の関係が悪化していることが大きな要因にある。

 ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアは西側と完全に対峙(たいじ)する国家となった。これは、ロシアが北朝鮮に味方する、少なくとも敵にはならないことを意味する。

 中国も、8月のペロシ米下院議長の台湾訪問以降、特に台湾問題をめぐって米国と激しく対立している。過去25年間で最も高位の米政治家による訪台を、中国は「極めて危険」な行動だと非難していた。

 北朝鮮としては、自分の“陣営”である中露両国が西側諸国と激しく対立しているので、国連安全保障理事会における新たな非難決議などに「拒否権を行使してくれる可能性が高い」と見ているはずだ。

 中露から見ると北朝鮮は、地政学的に西側との緩衝材になる。北朝鮮という国がなければ、米国軍が駐留する韓国と地続きになる。これは大きな脅威である。

 緩衝国・北朝鮮が、米国を仮想敵国としてミサイルを撃つことは、中露は歓迎しているだろう(ただし核弾頭は除く)。