元外交官が日本の水際対策を疑問視、内向き志向がイノベーションを阻害する2022年7月、シンガポールのアジア文明博物館 Photo by Toshiyuki Yamanaka

島国ニッポンにいるとあまり感じないことだが、コロナ禍以前から、世界では国をまたいだ交通発展や入国規制緩和の流れが加速していた。今後は近接する国境を越えて通勤する人が世界的に増えていくに違いない。日本人にありがちな、国単位で物事を見ていては、こうした大きなうねりを見落としてしまうだろう。世界96カ国を訪ねた元外交官が解説する。(著述家 山中俊之)

日本政府が、ようやく重い腰を上げた

 入国者と帰国者全員に義務づけていた出国前72時間以内の新型コロナウイルス陰性証明書について、9月7日から政府が認めたワクチンの3回接種を条件に不要とすると発表した。国内外で悪評だった厳しすぎる水際対策が一部緩和された。

 実は筆者も7月、約2年半ぶりに海外に渡り、日本の厳しすぎる水際対策を実体験したひとりだ。

 行先はシンガポールとマレーシア。アジア諸国の中では、世界との経済関係を重視しているため、コロナ禍でも水際対策が緩やかな国々だ。

 閑散とした関西国際空港に比べ、シンガポールのチャンギ空港は、たくさんの人々でごった返していた。陸路で渡ったマレーシア・ジョホールバルでも多くの観光客やビジネスパーソンが国境を行き来していた。

 シンガポールとマレーシアでは、ワクチン3回接種者はスムーズに入国できた。私はかねてこの地域を何度も訪問しているのだが、事前にインターネットで入国管理カードに入力していたこともあり、入国時の審査はコロナ禍前よりもスムーズであったと感じた。

 開国している世界と鎖国を続ける日本。違いを痛感した、久しぶりの渡航であった。

 こうした日本の閉鎖的状況や内向き姿勢は、コロナ関連に限ったことではない。次ページからは、発展を実感したシンガポールとマレーシア・ジョホールバルの強みを分析するとともに、多くの日本人が実感していない、「世界的な国境移動の大潮流」「国境越えがもたらすイノベーション」について考えてみたい。