金正恩総書記「ミサイル連射戦略」の狙いとは?元外交官が考察金正恩総書記 Photo:Chung Sung-Jun/gettyimages

北朝鮮が弾道ミサイルを立て続けに発射している。金正恩総書記は、軍事的に圧倒的に強い米国を向こうに回して、後へ引かない。ロシアのプーチン大統領のように軍事侵攻を断行した後、国際的に厳しく追い詰められるような失敗はしない――金正恩総書記をこう捉えると、“希代の戦略家”と思えてしまうから不思議だ。世界96カ国を訪ねた元外交官が考察する。(著述家 山中俊之)

金正恩総書記が戦国時代に生まれていたら...

「してやったり」「プーチンのように追い詰められることはしない」――北朝鮮の金正恩総書記は、ゆったりとした椅子に座りながら、NHKの報道で慌てふためく日本の映像を見て、こうつぶやいているのではないか。

 10月4日、北朝鮮が打ち上げた中距離弾頭ミサイルが4600キロメートルの距離を飛んで太平洋上に落下した。北朝鮮のミサイルが日本上空を通過したのは5年ぶりだ。

 国内各地で「Jアラート」(全国瞬時警報システム)のサイレンが鳴り響いた。北朝鮮のミサイルが上空を飛んでいる、墜落するかもしれない――第2次大戦を経験した世代の人は、戦時中を思い出したかもしれない。また、ウクライナでの戦争が、人ごとではないと感じた人もいただろう。

 いずれにしても、自国の上空を他国のミサイルが飛んでいくことは、安全保障上の重大な危機である。日本政府は厳しく批判するのが当然だ。日米韓が合同軍事演習などを通じて軍事的圧力をかけていくだろう。

 片や、金正恩総書記は、軍事的に圧倒的に強い米国を向こうに回して、後へは引かない。ロシアのプーチン大統領のように軍事侵攻を断行した後、国際的に厳しく追い詰められるような失敗はしない――金正恩総書記をこう捉えると、“希代の戦略家”と思えてしまうから不思議だ。

 もし、金正恩総書記が戦国時代に生まれていたら、徳川の大軍を撤退させた真田昌幸くらいの戦績を残したのではないか。

「対米抑止で自国の体制を守るためなら何でもする」――金正恩総書記の視点で考えると、実に合目的的(一定の目的にかなっているさま)であることが分かる。

 そもそも、金正恩総書記の“ミサイル連射戦略”の狙いとは何か。