ロシアによる核使用について、米国は差し迫った状況ではないとしているし、筆者もそれは現時点で正しい評価と思うが、これまでのプーチン大統領の考えや政治決断から判断すれば、ゼレンスキー大統領によるウクライナのNATO加盟案などはロシアをさらに挑発する恐れもある。

 同4州の領土保全と政治的独立のためという名目で、核の限定使用というオプションも決して非現実的ではない。それはロシアではなく、プーチン大統領が内外の圧力に追いやられるほどそのリスクは高まる。

4州併合で拍車がかかる
日本企業の脱ロシアの動き

 当然ながら、この状況が進めば欧米や日本による対ロ制裁はいっそう強化される。バイデン政権は早速、ロシアへの追加制裁を発表している。そして、単に制裁が強化されるだけでなく、既にプーチン大統領は自らを不可逆的立場に追い込んでおり、プーチン大統領が失脚するまで制裁が緩和されることもないような状況だ。

 よって、日本企業にとってロシアリスクは長期化するだけでなく、今回の部分的動員と4州併合は、日本企業の脱ロシアの動きに再び拍車をかける可能性がある。現に、大手自動車メーカーのトヨタとマツダはこのタイミングに合わせるかのようにロシアからの撤退を表明した。

 そして、欧米とロシアの亀裂が決定的となる中、ロシアに展開する、ロシアと取引がある日本企業には一つのリスクがある。それは欧米企業と日本企業との間の摩擦だ。

 ウクライナ侵攻以降、日本企業と比べ欧米企業によるロシア撤退の動きは活発だ。既に、スターバックスやマクドナルド、アップルなどの米国企業、スウェーデンのアパレル大手H&M、フランスのタイヤ大手ミシュランなど多くの企業が撤退しており、欧米諸国のロシアへの圧力は政治と経済の両面から歯止めがかからない。

 当然ながら、エネルギー資源の対ロ依存もあり、欧米各国によって圧力の度合いは異なるが、ロシア市場を持続することが企業にとってレピュテーションリスクを高めることになりつつある。

 欧米企業の中には、依然としてロシアと関係を持つ日本企業を良く思わず、場合によってはそれによって欧米企業と日本企業との間で摩擦が生じ、拡大する恐れもあろう。

 欧米企業と日本企業の関係とロシアは一見関係のないように映るが、新疆ウイグルの人権問題など近年の日本企業と人権デューデリジェンスを巡る動向はその教訓となろう。昨年、ユニクロを巡っては、新疆ウイグル問題が絡む形で男性用シャツが米国で輸入差し止めになっていることが明らかとなり、フランスではユニクロなどの企業が強制労働や人道に対する罪を隠匿している疑いがあるとして、現地NGOなどから刑事告発された。