一口に富裕層と言っても、代々の地主であったり、起業して株式上場したことで資産を築いたりなど、さまざまな人が存在する。故に、資産のポートフォリオもそれぞれ異なっているが、その中身はどうなっているのか。特集『円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術』(全16回)の#11では、富裕層への資産コンサルティングを手掛ける有栖川アセットコンサルティング代表の鈴木子音氏に、富裕層の最新動向に加え、資産防衛に関するアドバイスをしてもらった。(有栖川アセットコンサルティング代表 鈴木子音)
富裕層を五つに分類して分析
資産ポートフォリオとその対策
シンクタンク大手の野村総合研究所が設ける独自の指標では、「純金融資産保有額(世帯として保有する金融資産の合計額から負債を差し引いたもの)1億円以上5億円未満の世帯」を「富裕層」、さらに同5億円以上の純金融資産を持つ世帯を「超富裕層」と定義しています。
富裕層・超富裕層の世帯数は第2次安倍内閣が発足した2012年以降、増え続けてきました。11年には81万世帯だったものが19年には132万7000世帯と、約1.6倍に増加しています。富裕層がこれだけ急激に増えた要因は、10年代の世界経済が安定して上昇を続けていたからでしょう。
さらに、20年からは新型コロナウイルス感染症の流行に対処する形で、各国が大規模な金融緩和政策を導入しました。結果、金融商品や不動産、時計やアートに至るまで大量の投資マネーが流れ込み、高値を更新し続けています。そのため、これらを保有する富裕層の資産は膨張を続けているのです。
ところが、資産増加の恩恵を受けながらも富裕層の多くは、今後の経済動向について非常に強い警戒心を抱いています。野村総研が富裕層・超富裕層に該当する企業のオーナー経営者に行ったアンケート調査(20年)では、回答者のうち50%が「複雑で分かりにくい商品よりも、シンプルで分かりやすい商品を好むようになった」となり、また46%が「元本割れする可能性のある金融商品のリスクを、以前よりも気にするようになった」と答えました。
20年代に入り、世界の経済環境が大きく揺れ動く中で、リスクを極力避けて堅実な投資を指向する富裕層が増えているのです。
富裕層向けに資産コンサルティングを営む中で、特に今年に入って、お客さまから同様の声を聞くことが非常に増えました。一昔前なら安定資産の代表格だった「債券」や「金(ゴールド)」も、最近は荒い値動きで安心できません。そんな中で、人気の現物資産が「不動産」です。
経済の見通しが定まらない中、感度の高い富裕層は資産の組み替えを積極的に行い始めていますが、とはいえまだまだ少数派。それでは、大多数の富裕層は、実際にどのような資産ポートフォリオを築いているのでしょうか。
私がこれまで相談を受けてきた経験を基に、顧客の属性を「地主タイプ」「医師・歯科医師タイプ」「IPO企業オーナータイプ」「トレーダータイプ」「高年収勤め人タイプ」の五つに分類して分析しています。それぞれの資産ポートフォリオの中身や投資性向、そして対策について次ページ以降で解説していきましょう。