円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術#14Photo:PIXTA

上場企業の社長や役員の報酬を決めるのは難しい。株主代表訴訟に発展したケースもある。株式市場が芳しくない今こそ積極的に検討したいのが株式報酬だ。会社と役員との利害を一致させるばかりでなく、その報酬制度の導入が会社の価値を向上させ、役員にとっても十分な報酬につながるように設計することが理想的だ。特集『円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術』(全16回)の#14では、役員報酬・株式報酬の設計におけるさまざまな注意点を解説する。(弁護士 岩崎隼人)

取締役の報酬額決定を巡り
株主代表訴訟に発展

 一時、役員報酬を巡る株主代表訴訟事件が話題となりました。取締役の報酬額決定の不合理性を理由として、代表取締役等の責任が裁判で追及されたユーシン事件です(東京高判平成30年9月26日資料版商事法務416号120頁、東京地判平成30年4月12日資料版商事法務416号128頁)。

 同社では株主総会で報酬の上限枠のみを定め、その範囲内で取締役会が代表取締役に一任していたところ、代表取締役は自身の当期の報酬について、前期の報酬額であった8億3400万円に5億7100万円を増額し、合計14億0500万円としたのです。株主は、これは不合理であり、会社が増額分の損害を被ったとして、代表取締役等に対して賠償を求め、株主代表訴訟を起こしました。

 判決は、具体的な報酬額決定の方法や内容いかんによっては取締役に損害賠償責任が生じることがあり得るとしつつも、具体的な報酬額の決定は専門的・技術的な判断を要する経営判断事項であるとしました。

 それを踏まえて、報酬決定に至った判断過程や、その判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除いて善管注意義務違反にはならないと判断し、結果として義務違反を認めませんでした。

 このように、役員報酬は会社や株主と利害関係が時に対立する構図となるため、双方にメリットがある業績連動報酬を検討する必要があります。次ページ以降では、業績連動報酬の意義や種類、メリット・デメリットについて詳述します。