円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術#16Photo:PIXTA

一時は富裕層の節税手段にもなるとして人気を博した暗号資産だが、足元のバブル崩壊でダメージをもろに受けた。だがそもそも「暗号資産で節税」は本当にできるのだろうか。特集『円安・金利高・インフレに勝つ!最強版 富裕層の節税&資産防衛術』(全16回)の最終回では、暗号資産に詳しい税理士が最新状況を解説する。(税理士 柳澤賢仁)

資産だけ海外に移しても節税にはならない
暗号資産で節税するには「移住」が必要

 富裕層のキャピタルフライト(資本逃避)や節税手段にもなるとしてメジャーになってきた暗号資産だが、脱税の摘発も増えている。また、最近の相場崩壊により、節税の手段としての注目度と実情はどうなっているのか。今年の状況と実例を踏まえ「暗号資産節税」の現状についてまとめよう。

 キャピタルフライトというのは、もともと、ある国の政治や経済の情勢が不安定であったりそれがリスクファクターとなったりする場合に、資産価値の減少などのリスクを回避するために、資金がより安全な国外に移動することをいう。つまり、本質的には、課税を免れるための資産の海外移転はキャピタルフライトとは言い難いところがあり、実際、日本に住んでいる個人が資産だけを国外に移転させて運用益を出したとしても、理論的には日本での課税を免れることはできない。

 どういうことか。日本の所得税法上、日本の「居住者」への課税は全世界所得課税方式といい、国内外問わずその年に稼いだ全ての所得が課税対象となるため、日本に住んでいながら国外で運用益を出しても国内で課税されることになる。従って、資産を国外に移転させたその個人が日本に住んでいる限り、税務的にはあまり意味がなく、節税にはならないということになる。

 日本の所得税法上、「居住者」の定義は「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう」とされている。

 そして、同じく所得税法上、「居住者以外の個人をいう」と定義されている「非居住者」への課税は国内源泉所得課税方式という。非居住者が国外に移転させた資産を用いて国外で運用益を出した場合、それは国内源泉所得には該当しないから日本での課税は起きない。

 つまり、富裕層が節税をしたくてキャピタルフライトをする場合、資産だけ国外に移転させるだけでは足りず、自らも国外に移住して「非居住者」になる必要があるのだ。実際に、弊事務所のクライアントで、そのような海外移住を計画していたり、ご家族と共に国外に移住したりした方が累計で100件は超えている。

 特に暗号資産は株式などとは異なり、現状、国外転出時課税制度(通称「出国税」)の対象資産ではない。そのため、暗号資産投資で多額の含み益を抱えた富裕層にとって、海外移住は節税策としても極めて合理的な選択となる。

 暗号資産といえば気になるのが、最近の相場下落である。これまで暗号資産に投資していた富裕層は、どのような影響を受けているのだろうか。あるいは、海外移住が現実的ではないと考える暗号資産投資家はどのような手段を取ってきたのだろうか。そしてその手段に有効性はあるのか。次ページから詳しく見ていこう。