一方、クマは過食して体重が増加した後に冬眠に入り、ほぼ完全にじっとしていて動かない。Perry氏は、「もしも冬眠前から冬眠中のクマと同じような生活をしている人がいたとしたら、医学的にはその人の予後が非常に懸念される」と語っている。実際、冬眠中のクマはインスリン抵抗性が亢進することが、これまでにも分かっている。しかし、血糖値とインスリン値は安定していて糖尿病に進行することはない。そして、春が訪れて冬眠から覚める頃に、彼らのインスリン感受性は冬眠前のレベルに回復している。「クマがどのようにして、このような適応を成し遂げているのかを理解することは、人間にとって重要な意味を持つと考えられる」と同氏は話す。

 新たな研究のためPerry氏らは、ハイイログマ(北米に住むヒグマの一種)の血液と脂肪細胞を、活動期と冬眠期に採取した。また、冬眠中に10日間にわたりブドウ糖を与える期間を設けて(クマは冬眠中も短時間、目覚めて動くことがある)、その後2日間、麻酔で眠らせてから検体を採取した。採取した検体を分析し、遺伝子活性がどのように変化しているかを検討。その結果、冬眠を中断している期間に採取した血液成分を、冬眠中に採取した脂肪細胞に添加すると、インスリンシグナルに関連する遺伝子が活性化され、インスリン抵抗性が改善される(インスリン感受性の高い状態へ切り替えられる)ことが明らかになった。この変化に関連していると思われる、8種類の血清タンパク質も特定された。

 Perry氏は、この研究の次のステップを、「これら8種類のタンパク質が、クマの体内でどのように機能しているのかをより詳細に把握することだ」とし、この研究が最終的には「ヒトの糖尿病の予防や治療のための新薬につながる可能性がある」と述べている。さらに同氏は、「クマは何カ月もカウチポテトのような生活を送っているにもかかわらず、筋肉や骨量が減らない」と語り、クマの冬眠が糖代謝以外の点でも研究対象となり得ることを指摘している。

 本研究には関与していない、米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のEmily Gallagher氏は、「ヒトのインスリン抵抗性については既に多くのことが明らかになっている。しかし、その根底にあるメカニズムについては、まだ研究すべきテーマが多く残っている。クマと人間は同じではないが、今回の報告は、インスリン抵抗性に関連する未知の遺伝子やタンパク質の存在を示すものとも言える」と語っている。

 Gallagher氏によると、2型糖尿病には多くの治療法があるが、大半の患者の病態の根底にはインスリン抵抗性があるため、それをインスリン感受性の高い状態へと逆転させる治療法が理想的だという。同氏もPerry氏が語った研究の方向性と同様に、「クマで特定された8種類のタンパク質が、代謝をどのように調節するのかをより深く理解しなければならない」と述べている。また、「それらのタンパク質の機能を強化または阻害することが、インスリン抵抗性の改善に役立つかどうかを検討する必要がある」としている。(HealthDay News 2022年9月22日)

https://consumer.healthday.com/9-22-one-honey-of-a-study-well-fed-bears-give-clues-to-human-diabetes-2658230821.html

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