ピッチャーは丁寧に低めに球を集め、両ゲームともに立教の攻撃を2点に抑えた。

 打線は早い回には火が付かずとも、じっと我慢。そしてチャンスが訪れると指揮官は決然と動く。

 1回戦の延長10回表、先頭打者の吉納翼(2年)がフルカウントから四球を選ぶ。代走に梅村大和(2年)、そして7番打者・生沼弥真人(3年)に代打を送った。打席に立つ茅野真太郎(3年)はしっかりと送りバントを決めた。

 ここで思うのである。「プロの采配なのだな」と。

 素人考えでは、巧打者の生沼にそのままバントをさせても構わないのではとも思う。だがそれこそが妥協だ。小宮山はそれを決して良しとしない。場面、場面の最善手こそがセオリーで、それを定め、実行する。両選手のバントの精度を比較しての起用である。日々の練習を射るように見ている指揮官がどの場面に誰を起用するのか。この徹底ぶりがプロの采配なのだ――そう嘆息したのだった。

 そして8番山縣秀(2年)がレフト越えの二塁打を放ち、二塁走者が生還。さらに代打の三宅隆二郎(4年)がセンター前ヒットを打ち山縣もホームベースを踏んだ。

 山縣はショートの守備で小宮山監督が全幅の信頼を置く。打撃も良いところに回ってきて、セーフティーバントなど機を見て敏に動くことができる。打線が振るわないときのテコ入れを考える場合、山縣を2番に上げる構想もあった。しかし小宮山監督は慎重だった。

「8番だからノープレッシャーで打てている。打順を上げたら、どうなるのか分からない」

 立教戦を終えた時点で、山縣は打撃成績7位に名を連ねた。25打数8安打2打点、7得点。打率.320。早稲田の打線ではトップの成績である。

 2回戦でもデジャビュかと思う場面があった。

 同点に追いついた7回裏の早稲田の攻撃。先頭打者の6番吉納がストレートの四球を選ぶ。ここで代打の梅村がバントで走者を二塁へ。そして8番山縣が期待通りにセーフティーバントを決めて1死一・三塁。次の代打が三振した後、1番熊田任洋(3年)がセンター前ヒットで1点。次の2番松木大芽(4年)のときにワイルドピッチを誘って同点としたのである。

 そして8回裏に先頭の4番蛭間拓哉(4年)がレフト前ヒットで出塁すると、5番印出太一(2年)の初球、バントシフトを敷いてくると見越してバスター&ラン。打球がチャージしたサードの横を抜け、セカンドベースカバーのショートの右を嘲笑うかのようにレフト前へ転がる。スタートを切っていた蛭間は三塁へ。無死1・3塁として、6番吉納が1・2塁間を抜くヒットで勝ち越したのだった。

8回裏、早稲田大野球部の攻撃。満塁のチャンスを作った8回裏、早稲田大野球部の攻撃。満塁のチャンスを作った

 投手陣も一丸となって踏ん張った。

 1回戦の継投が圧巻。防御率0点台、投手ランク首位の加藤孝太郎(3年)が先発。加藤は低めに球を集めてじっと踏ん張ったものの、7回に2死から連打を浴びて2点目を奪われる。なおも一・三塁で左打席には3番の道原慧。3割打者だ。 

 この場面に小宮山監督は左腕の原功征(4年)をリリーフに送る。原は大敗した明治戦、集中打を浴びて3分の1イニングで5失点。明治打線に火が付いてしまった後の登板で、「原にとっては気の毒な起用だった。決して調子を落としたわけではない」と小宮山は見ていた。

 原は監督の期待に応えた。早稲田バッテリーは落ち着いてボールを散らし、フルカウントから道原を三振に切って取る。ピンチの後にチャンスあり。直後の8回表の早稲田の攻撃で2-2の同点に追いつくのだった。

 その後の8回、9回の2イニングを鹿田泰生(2年)が6人で抑え、延長10回裏のマウンドに立った伊藤樹(1年)も立教の攻撃を3人で終えた。

 2回戦でも先発の鹿田から齋藤正貴(3年)、伊藤大征(3年)、原、伊藤樹と投手陣一丸となって1点差を守り切った。

 2022年の早春のことだ。風の冷たい東京・東伏見の安部球場でのオープン戦前だった。小宮山監督はこう話していた。

「今年のチームは絶対的なエースがいない。投手陣みなでなんとかしないと。そんな意識が高まって全体にレベルアップできれば、期待できる」

 立教戦の投手陣の躍動を見て、その言葉を思い出した。そのことを試合の一週間後に聞くと、「加藤が頑張っているので、負けたくないという気持ちがみなに出てきたのかもしれない。どのピッチャーも、日頃から言って聞かせている低めの配球は及第点。キャッチャーの印出もよくがんばっている」と監督は目を細めた。

 同じ週末、首位をひた走る明治と慶応との試合も行われた。2勝1敗で慶応が勝ち点を奪取。この結果を受け、11月5日からの早慶戦に優勝の行方がもつれこむ可能性が出てきた。