東京六大学野球の秋季リーグが開幕。7シーズンぶりに開幕2連勝を飾った早稲田大学野球部だったが、その後、春季の覇者・明治大には2連敗。そのうち1試合は小宮山悟監督就任後、最多の17失点というありさまだった。それでも小宮山監督は「大敗」という結果に勝機を見いだしていた。その理由とは。(作家 須藤靖貴)
強豪・明治大戦
17失点の惨敗
法政大に連勝して勝ち点を挙げた早稲田大野球部。絶好のスタートを切って勇躍臨んだ明治大戦だった。
しかし1回戦は0-2。そして2回戦では4-17。
「強い明治と、互角に戦えるつもりだった。でもだめだった。ため息も出ない」
敗戦直後の小宮山悟監督の偽らざる心境である。
2回戦の翌日9月27日の午後、監督の話を聞くことができた。ため息すら出なかったのは敗戦直後のことのようで、小宮山はさばさばした表情でホテルのラウンジにやってきた。
試合の2日ともに台風一過の快晴、カラリと乾いた気持ちの良い日和だった。
1回戦、両軍の失策はゼロ。四球は明治1、早稲田2。試合時間は1時間59分。引き締まった攻防だった。
その緊張感が2回戦で壊れた。早稲田の投手陣は8つの四球を献上、失策は3つ。5回裏に6点を奪われる。早稲田にとっては強烈な中押しである。
その攻防はデ・ジャビュかとも思えた。明治は、1番・村松開人からの好打順。出塁した村松を2番・飯森太慈が送りバント。これが一塁セーフとなる。飯森は俊足巧打。村松が出塁すれば守備側に緊迫の色が漂う。そんな局面でほころびが出てしまった。
この場面が1回裏の攻防に酷似していた。いきなりの四球で先頭打者の村松が一塁へ。飯森の送りバントを、捕手が一塁へ悪送球。
そして1回も5回も、直後に明治・3番宗山塁にライトへの犠飛とホームランを打たれた。この日の宗山は手が付けられず、5打数5安打7打点。ホームランを2本放っている。
「明治は最も足の使えるチーム。飯森の俊足ぶりも十分に織り込み済み。それを承知していたのに、対応しきれなかった。そういうことも含めて、練習不足と言うしかない」
1回裏は1点献上にとどまったものの、5回裏は6失点である。同じようなミスを繰り返すと、野球というゲームは一気に均衡が崩れてしまう。
1回戦の終盤の一場面。0-2で迎えた早稲田9回裏の攻撃だった。
代打に送った4年生が見逃し三振を喫した。その4年生は悔しさと無念さをにじませながらベンチに走ってきた。その顔には「手が出なかった」と書いてある。このとき小宮山は「それでも、なんとかして手を出すんだよ」と、胸に言葉を吐いた。
その4年生が、ということではない。全体的に部員たちの迫力が足りない。
「大澤のような4年生が出てこないかな」
そう指揮官はつぶやくのだった。