小宮山悟が監督に就いてから初めて行われたサマーキャンプ。そこには元メジャーリーガーが我慢強く選手と向き合い、チームの一体感をつくり上げた姿があった。大御所OBも小宮山監督の指導力に太鼓判を押す。早稲田大学野球部のサマーキャンプから見えた理想のチームづくりとは?(作家 須藤靖貴)
元メジャーリーガーが
バッティング投手を買って出る
緑の匂いが濃い。湿気を帯びた空気に密度がある。
早稲田大野球部、新潟県南魚沼市での合宿である。
8月8日から19日まで、小宮山悟が監督に就いてから初めてのサマーキャンプだ。秋季リーグ戦に向けて、総勢47人の部員たちがこの地で研鑽を積んだ。
拠点は大原公園内の通称「ベーマガスタジアム」。両翼100メートル、中堅122メートル、3000人収容。NPB(プロ野球12球団)の2軍戦も行われる。関越自動車道・石内ICからすぐ。グラウンドの水はけの良さでも知られている。バックスクリーン電光掲示板の「歓迎 早稲田大学野球部 ようこそ南魚沼へ」のメッセージが、部員たちの練習を見守っていた。
その終盤、取材にお邪魔した。
昼前に雨が上がり、「特打ち」が始まった。レギュラー陣が打席に立つ。
大きなストライドでマウンド手前まで歩くのは小宮山監督。元メジャーリーガーがバッティング投手を買って出る。相撲で言えば親方自らが土俵に立って稽古をつける感じだろうか。傍からすると「なんとぜいたくな」といった光景だが、バットを構える部員としては実戦さながらの緊張感が漂う。そんな場面がこの夏合宿には多く見られたという。
たるみのない体躯からきれいなフォームで投げる。快音が響く。バッターの得意なコース、不得意なコースへ投げ分ける。ストライクをバッターが見逃した。「おっ?」と声を上げる監督。バッターは頭を下げながら足場をならす。
「タイミングが合わず、ストライクなのにバットが出ないこともある。見逃してバツが悪いのか、そんなときにはたいてい足場をならす」
小宮山は打者心理を語る。その表情に合宿の充実ぶりがうかがえるのだった。
テンポ良く球を投げながら、小宮山は四半世紀以上も前の練習風景を思い出していたのかもしれない。
小宮山が大学1年生の時、コントロールの良さを買われてバッティング投手を数多く務めた。そのときの打撃練習の緊張感はすさまじいものだったという。バッターは上級生。彼らにしてみれば打撃をアピールできる好機だ。バッティング投手の制球が定まらないと「どこへ投げてるんだ!」「代われ!」と一喝されておしまい。下級生ピッチャーはどうしても打者の威圧を感じてしまい、腕に力が入って普段通りにストライクが取れない。そんな中、抜群のコントロールを誇った小宮山ばかりが指名されたのだった。
「ストライクを見逃されるときがあった。すると先輩は自分を見据えて、『今の、ボールだよな』と言う。こっちはうなずくしかないんです」
先輩打者の照れ隠し。張りつめた緊張感の中の、ほほ笑ましい場面である。