正解がないことを対話によって考えるのが話し合いであり、多くの人に関わる「大事なこと」には、たいてい「唯一の答え」はない。

◇VUCAの時代に対応するために

「正解」が見えにくい不確実な現代社会では、話し合いがより必要になってくる。

 かつてはビジネスでも学業でも、「これをやれば大丈夫」という「勝ちルート」が存在した。その時代には、「子どもの創意工夫」より「基礎学力の定着」「言われたことをやりきる力」に焦点が当てられていた。現代の多様化するニーズに応えるためには、さまざまな立場や所属の人々が強みを持ち寄り、話し合うことが必要となる。

 また、グローバル化と高度な情報化などにより企業の同質性が失われている今、職場の多様性にも対応していかなくてはならない。同じとされてきた日本人同士でも、意見や価値観の違いが意識され始めている。多様性をポジティブな力に変えるためには、本当に腹を割って話し合い、時間をかけて合意をつくることが大切だ。

◇話し合いは民主主義の根幹

 民主主義が世界規模で危機的な状況に陥りつつあることも、話し合いの作法を今学ぶべき理由のひとつだ。排外主義的な政策を推し進めたドナルド・トランプ氏の登場、ウクライナとロシアの戦争、民主主義とは対照的な政策をとる中国の台頭などが起きている。日本でも、国民への説明責任を果たさない国会答弁が繰り返され、「言葉の貧困」と「コミュニケーションの軽視」が問題になっている。

 日本財団の調査によれば、「自分で国や社会を変えられると思うか」という質問に対して肯定的な回答をした日本の若者は、全体の18.3%にとどまったという。他国と比べてもワースト1位の結果である。

 だからこそ、民主主義の根幹たる「話し合いの意義」に立ち返らなければならないのだ。

◆話し合いとは何か?
◇「対話」と「決断」

 話し合いのプロセスは、大きく「対話」と「決断(議論)」の2つのフェイズに分けられる。「対話」では、お互いの意見の違いを明確にして、認識し合うコミュニケーションを行う。「決断」では、どれが優れている(マシである)意見かを理性的に比較検討し、決めるための議論をする。