本書の要点

(1)話し合いは「対話」と「決断」の2つのフェーズに分けられる。
(2)よい対話には、メンバーが「当事者性」を感じられるような「フォーカスされた問い」が欠かせない。問いの投げ方によっても話し合いの質は大きく変わる。
(3)よい対話の実現によって、「自己を変える契機が得られること(自己変容)」「共通の了解が生まれること」の2つの成果が期待できる。
(4)コミュニケーションの生産性を左右するのは「決断」だ。その際、安易に多数決を採るのではなく、全員が納得できる決め方を決めておくことが重要である。

要約本文

◆なぜ今話し合いを見直すのか
◇日本人が話し合いを苦手とする3つの理由

 社会に分断や争いが増え、これまで以上に話し合いの重要性に目が向けられる時代にあって、「話し合いは面倒くさい、時間の無駄」という「あきらめ」が広がっているように感じられる。そもそも、「誰もが意見を持ち寄り、それらが受容され、納得感をもって、物事が決められている」話し合いは、どれだけ成立しているだろうか。

 日本人が話し合いを苦手とする代表的な理由は、「(1)同質性の高い集団」「(2)子どもの頃から、ダメな話し合いを積み重ねている」「(3)正解主義に陥っている」という3つだ。

 日本人は単一に近い民族であり、「個のすべてをかけて集団に関わることをともに求め合う」同調圧力の強い傾向がある。一見すると仲がよさそうな間柄でも、「心おきなく自分の意見を言っても、村八分にされない」ような心理的安全性が保たれているとは言えない。「心理的安全性は、話し合いのための基礎的資源」なので、同調行動への圧力が強い日本では話し合いに対して困難を感じる人は少なくないのだ。

 そして、家庭や学校教育の場では、相手の話を最後まで聞くといった話し合いのルールが守られておらず、「嫌な経験」を積み重ねて、話し合いへの苦手意識を助長している。さらには、暗記・記憶が中心である一般的な一斉授業のために、「正しい答え」を探す正解主義的な考え方が強まっている。