「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。本書の原著である『フロイトの椅子』は韓国の人気女性アイドルグループ・少女時代のソヒョン氏も愛読しているベストセラー。ソヒョン氏は「難しすぎないので、いつもそばに置いて読みながら心をコントロールしています」と推薦の言葉を寄せている。あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は日本版の刊行を記念して、本書から特別に一部抜粋・再構成して紹介する。
どなることだけが「怒り」の表現ではない
怒りの表現は、爆発的なものばかりではありません。
小雨に濡れたときのように、それとなく他人を心地悪くさせることもあります。
顔を合わせても話をしない、という態度もそのひとつです。
あるいは、いつもよりのろのろ仕事をしたり、急いで終わらせなければならないことをあと回しにしたりして、一緒に働く人を困らせます。
会社員であれば、手がけているプロジェクトを失敗させて、上司と自分が共倒れになる計画を立てることもあります。
どうでもいいことにたっぷり時間を使い、重要な業務はさっさと切りあげます。
信じがたいかもしれませんが、そんな行動を取ることがあるのです。
人間は自己中心的な動物なのに、なぜ不利益を被るようなことをするのでしょうか?
もちろん、これは気づかないうちに、「無意識」の自分が行っていることです。
「腹を立ててうらみを抱くのは、毒を飲んで敵が死ぬのを待つようなものだ」――アメリカの作家兼俳優マラキー・マッコートの言葉を思い出すと、理解しやすいでしょう。
助けを拒否して、相手に罪悪感を抱かせる
怒りをこっそり表現するタイプの人は、怨恨のエネルギーをじわじわとため込んでいきます。
背後で聞こえないようにつぶやき、うらんでいる相手と目を合わせないようにします。
自分の怒りを見透かされてしまいそうで、不安だからです。
その一方で、機会さえあれば悪評を流して、相手を苦しめようとする人もいます。
インターネットは実に便利な道具です。わざわざ自分で腹いせをする必要はありません。
第三者をそそのかして敵を攻撃させ、自分は背後でそれを楽しみます。
相手が苦しんでいても傍観し、時にはサッカーのオフェンスのように追いつめていきます。
まったくちがうやり方もあります。
涙を流して、相手の出方を待つのです。
仮病を使って様子を探ることもあります。
仕事でミスを連発し、「すみません」と繰り返して相手を困らせたりもします。
これを精神分析用語で「受動的攻撃行動」といいます。
一見、怒りとはなんの関係もなさそうに見える表現もあります。わざと身を粉にして働くのです。
そして、とてもつらそうにふるまいながら、助けは断固として受け入れません。
相手に強い罪悪感を抱かせたいからです。
(本稿は、チョン・ドオン著 藤田麗子訳『こころの葛藤はすべて自分の味方だ。 「本当の自分」を見つけて癒すフロイトの教え』から一部抜粋・再構成したものです)