コロナ後遺症に、認知症治療薬「ドネペジル」が効く可能性が高い

 教授たちは次に、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させる働きを持つ認知症治療薬「ドネペジル」を、後遺症モデルマウスに投与する実験を行った。コロナ後遺症で起きる倦怠(けんたい)感やうつ症状は、脳内のアセチルコリン不足による脳内炎症が原因であるという仮説を証明し、この仮説に基づく治療法を開発するためだ。

「結果、ドネペジルを投与したことによって脳内のアセチルコリン濃度が正常値に戻ったマウスは、脳内の炎症性サイトカイン濃度も正常なマウスと同程度に戻り、倦怠感もうつ症状も正常なマウスよりもむしろ良好な数値にまで回復しました」

 ドネペジルは、アルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の進行を抑制する薬で、認知症治療薬としては最も有名であり、古くから使用されている。

「ドネペジルでは問題になるような健康障害が出ないことが既に分かっているので、この冬からは少数の健康な成人モニターを対象に行う第1相試験をスキップして、適切な疾病状態にある限られた数の患者さんを対象に行う第2層試験に入ります。これで良い結果が出れば第3層試験に進み、コロナ後遺症の治療薬としてもドネペジルを使えるようになります」

 効果が期待できて、かつ健康障害の心配も少ないのなら、一日も早く使えるようになってほしいのだが、日本の薬事承認は諸外国に比べて時間がかかることで有名だ。新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬に関しては、海外で使用されている医薬品について日本国内の承認審査を短縮する「特例承認」や、有効性があくまで推定段階であっても承認が申請できる「緊急承認」という制度も適用されるようになっている。