今回は、金融の国際規制基準が生まれる場であるスイス・バーゼルにまつわるエピソードと、なぜそのような場に私が20年もの間、身を置くことになったのかを紹介したい。
バーゼルとの出会い
バーゼルはスイスの北西の端にあり、フランスとドイツの国境に位置する人口17万人ほどの街。美しい旧市街を歩くと中世に戻ったような気分になる。街の周りは森に囲まれ、駅の裏手を少し歩けばきれいな草原が広がっている。
私が初めてバーゼルを訪れたのは1997年夏。保険監督者国際機構(IAIS)の会議が、バーゼルにある国際決済銀行(BIS)で開催された時のことだ。素晴らしいBISの会議場、バーゼル郊外の自然に囲まれたBISのスポーツクラブ、会議後に散策して心休まるライン川のほとりなど、夢のような場所での国際会議を体験した。
初めてバーゼルを訪れて会議に出席した時は想像すらしていなかったが、私は98年から2017年までの20年間を、このバーゼルの地で過ごした。
それまでバーゼルとはまったく縁のない世界に私は生きてきた。日本で生まれ育ち、大学では体育会テニス部に所属。体育会の縁で採用された保険会社に入社し、地域営業で「保険セールス」を生きがいとしていた。
しかしその後、出向先の労働省で、上司のかばん持ちで訪問したパリにある経済協力開発機構(OECD)が人生を変えた。OECD本部の4階にあるカフェテリアでは、パリの閑静で緑豊かな住宅地を眺めながら、OECD職員や各国政府の代表がコーヒーを楽しみながら政策論議をしている。印象派の絵のような光景を目にした瞬間、「ここで働きたい」と思った。