河合美宏
最終回となる今回は連載を締めくくるにあたり、国際機関を長く統率し国際基準の制定に携わってきた中で得た学びについて、「自分」「同志」「意思疎通」の三つのキーワードを用いて紹介したい。

前回までに国際基準制定主体が基準制定に合意するまでの流れについて述べたが、国際基準制定主体がどのように統治されているかについては、あまり知られていない。もっと言えば、国際規準制定主体で、その意思決定機関と執行機関(事務局)がどのような関係かまで知っているのは、ごく一部の関係者だけであろう。しかし、これは国際基準制定主体の動向を知る上では欠かせない重要なポイントである。今回は私の経験をもとに国際基準制定主体の統治についてひもといてみたい。

国際基準制定主体の最重要任務は、国際交渉を通じて、市場の健全性や契約者保護の向上につながる国際的な監督基準を作ることにある。その交渉は必ずしもゼロサムゲーム(一方の得が他方の損)ではなく、グローバルに価値ある基準を制定することが最大の目的である。では、実際にこうした国際交渉はどのように進められているのか。今回は保険のグループ組織に関する監督を例に、国際基準が合意するまでの過程を説明したい。

金融の国際規制基準は、世界中の金融機関に多大な影響を及ぼす。その制定にはどのような歴史があり、何のために制定され、なぜここまでの影響力を持っているのか。今回はこうした基本的な、しかし実はあまり理解されていない国際規制基準の本質について説明したい。

金融監督分野において国際規制の基準制定主体が果たす役割の重要性は2008年の国際金融危機で飛躍的に高まり、体制も大幅に強化された。このことが国際規制改革を進展させる土台となったが、組織強化は決して容易なことではなかった。今回は、国際基準制定主体の体制がどのように強化され、またそれが実現するまでにどのような道のりをたどったのかを、保険監督者国際機構(IAIS)を例に見ていきたい。

国際会議は多様性の宝庫である。人種、国籍、性別、年齢等を超えて、皆で新しい世界を築くために議論をする。他の人々の考えを無心で聞くことによって異なった見方も理解でき、新たな発想が生まれてくる。このような過程を経て共通点を見いだし、世界中に影響力のあるような国際基準が生まれてくる。参加者を尊重し、真剣に意見を聞く重要性を実感した例を紹介しよう。

金融危機直後の最大の課題が「G-SIFIs(Global systemically Important Financial Institutions)」、いわゆる「Too big to fail(大き過ぎてつぶせない)」の問題をどのように解決するかであった。今回はこの問題の背景や実際の規制議論、基準策定までの過程などを解き明かしたい。

今回は、金融の国際規制基準が生まれる場であるスイス・バーゼルにまつわるエピソードと、なぜそのような場に私が20年もの間、身を置くことになったのかを紹介したい。

事務局次長として私が赴任した時は「保険会社向けの国際資本基準を作る」には機が熟していなかった。08年の世界金融危機をきっかけに設立されたFSBの規制対策により、保険の国際資本基準を作る動きが始まった。

私は保険監督者国際機構(IAIS)の事務局長選挙で事前の予想を覆し、選出された。今回は、勝てるわけがないと思われたこの選挙になぜ勝てたかを考えてみたい。このポイントは、重要な国際会議の交渉で成果を上げるカギでもある。

国際機関の要である事務局長は組織を動かす中心となる。事務局長選出は、関係者以外にはベールに包まれた世界である。保険監督者国際機構(IAIS)の事務局長選出選挙において、誰もが筆者が負けると確信していたにもかかわらず勝利した過程を振り返りながら、これらのベールを解き明かしたい。

国際基準を作る国際機関はどのようにして誕生するのかについて、保険監督者国際機構(IAIS=International Association of Insurance Supervisors)の創成期を見ることによって解き明かしたい。
