コロナ禍の就活生が、“アナログ手帳”の制作で得たコミュニケーション

新型コロナウイルス感染症拡大による1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月――その春に大学に入学した学生たち(現在、主に3年生)が就職活動(就活)を行っていく。デジタルネイティブな彼・彼女たちZ世代のスケジュール管理はスマートフォンの使用が当り前だ。しかし、就活においては「手帳」が重宝される傾向もあり、“大学生による、就職活動生のための手帳”である「シン・就活手帳」が今年度も完成した。サポート役を担った著者が、学生たちと歩んだ、その制作過程を振り返る。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

デジタル時代における、“アナログ手帳”の意義は何か?

 2020年の春――新型コロナウイルス感染症の流行とともに大学に入学した学生たち(現在3年生)の就職活動が始まっていく。彼・彼女たち24卒生のキャンパスライフは例年同様の入学式ではなく、サークルの新歓コンパなども行われずにスタートした。入学後の講義はほぼすべてがオンライン。ちょうど、私には大学3年生の姪がいるのだが、彼女が1年生だった当時、「画面越しでしか知り合えない同級生とどうやって友人関係を結べばいいのか……」と嘆いていた。思い描いていた大学生活を送れないまま就活生になり、「ガクチカがない!」と、頭を悩ませることが多いという。「ガクチカ」とは、「学生時代に力を入れたこと」の略で、ガクチカの内容は企業の採用面接における定番の質問だ。アルバイトの機会も減り、海外留学もできず、人とのリアルな交流さえ制限されていたのだから、それはもっともな悩みだろう。

 そんな、憂える就活生たちを応援するアイテム「シン・就活手帳」が、満を持して、今年2023年(24卒版)もリリースされ、就活イベントでの無料配布など、特設のウェブサイト*1 でも応募を受け付けている。

*1 「シン・就活手帳」プロジェクトの特設ページはこちら

「大学生による、就職活動生のための手帳」というコンセプトの「シン・就活手帳」は、就職活動を行う学生たちが“就活中の使いやすさ”を追求してつくったものだ。損保ジャパン*2 の支援によって2020年から始まり、今回(2022年度=24卒用手帳)の制作が3年目となった。私は、学生たちのサポート役として、また、手帳に掲載される「就活ナビゲーション」コーナーの編集者として、一昨年(2021年)からプロジェクトに参加させてもらっている。

*2 損害保険ジャパン株式会社(本社:東京都新宿区)。1888年(明治21年)10月創業。

 今回のスタートは、昨年(2022年)の6月だった。プロジェクトの参加学生を決める選考オーディション(オンライン開催)に私も立ち合わせてもらったのだが、一昨年(2021年度=23卒用手帳*3 )のオーディションで会った学生たちと明らかに違う点がひとつあった。それは、実際に“紙の手帳”を使っている学生が少なかったということ。「文房具が大好きで、ロフトやハンズによく入り浸っています」という学生ですら、「スケジュールはスマホで管理しています」と言うのだ。「これは、手帳についての私の考え方を改めないといけない」――そう思い知らされた、いまどきの就活生の現実。デジタルメディアの時代に、“就活用の紙の手帳”はどのような役割を果たすべきかを学生たちと私自身に問い直す必要があった。

*3 詳細は、「HRオンライン」記事「就活生たちが、“就活で使いたい手帳”を、制作のプロと一緒に創った!」参照

 今回の「シン・就活手帳」のプロジェクトは、首都圏の大学に通う9名の学生が選抜され、制作メンバー6名と広報メンバー3名の2グループに分かれて進められた。前回同様に、私は制作メンバーのサポート役としての参加だ。7月から9月にかけて行われる計4回の制作会議で、手帳の判型や表紙のデザイン、カレンダーのフォーマットといったすべての仕様を決定していく。

 スマホでスケジュールを管理している、世の中の多くの学生(就活生)にとって、紙の手帳(以下、アナログ手帳)を使う意義はどこにあるのか、まず、その点をプロジェクトメンバーで検討すべきではないか――最初の制作会議で、私はそう問いかけた。

「シン・就活手帳」プロジェクトのエグゼクティブ・プロデューサーである脇田雄祐さん(ダイヤモンド・ヒューマンリソース社)は、就活生が持つアナログ手帳の意義について、こう答えてくれた。

「就活生のよくある事例として、『企業からの電話をスマホで受けたときに、同じスマホ管理でのスケジュールをすぐに確認できなかった』『就職活動中はスマホの充電を常に気にしなければならない』といったことがあります。大学生は、就活のほかに、授業やアルバイトやプライベートのスケジュールに優先順位をつける必要があり、紙の手帳であれば、自分仕様に見やすく書き分けることが可能になります」

 たしかに、訪問した企業内では、スマホをいじっているよりもアナログ手帳を手にしているほうがスマートな印象を相手に与えるだろうし、面接中に次回の面接日程を提案された際など、採用担当者の目の前でスマホを操作するのは気が引けるかもしれない。

 とはいえ、面接官の印象を良くするために“かたちばかりの手帳”をつくってもしかたない。持つだけではなく、使うことに意義のある手帳にしなければならない。

「シン・就活手帳」プロジェクトのメンバーとなった学生たちは「スマホしか使ったことのない自分たちが使いたくなる手帳とはどんなものだろう?」と、思案を重ねた。

「月間のカレンダーはいらないのでは?」「やっぱり、スケジュールはスマホで見るほうがいいよね」――これまでの「シン・就活手帳」のコンテンツをゼロから見直す意見も出て、私は議論を煽っておきながらも“着地点”が見いだせるのか、内心ひやひやした。

 前回は手帳好きの学生たちが集まったこともあって、カレンダーのフォーマット自体は標準的なものとなり、それをどうブラッシュアップするかについての細かいディスカッションが行われた。しかし、今回は、根本的なところでの意見のぶつかり合いが多く、議論が膠着する場面も見られた。もちろん、メンバーの中にはアナログ手帳を愛用している学生もいて、手帳を開く楽しさや、自身の手書き文字がそのときの心情を思い起こさせてくれることを皆に伝えた。感心したのは、その学生が、「私もスマホでスケジュールを管理してみたら、便利でした(笑)」と報告してきたこと。そして、「細かなスケジュールを管理するのはスマホという前提で、手帳は、就活の中身にフォーカスしたほうがいいかもしれない」という意見にメンバー全員が同意した。自身の経験や思い、先入観だけで意見を出すのではなく、やってみたことがないことは試してから判断する――そんな、労苦を惜しまない姿勢に、「多くの就活生に役立つものを作る!」という強い気持ちが表れていた。