近年、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』をはじめ、お笑い芸人の注目度は上がっている。さらに情報番組やスポーツ番組、ときには教育番組までお笑い芸人を見ない日はない。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し続けてきた伝説のお笑い講師・本多正識氏による『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が2022年12月に発刊された。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした本書は西野亮廣氏「スターを生み出し続ける「報われる努力」を知って欲しい。」、濱家隆一氏(かまいたち)「本多先生には今でも一文字単位のダメ出しもらってます。笑」、山内健司氏(かまいたち)「本多先生に教わって僕らもこんなに売れました!」と著名人からも絶賛されている。また、著者がABCラジオ『ミルクボーイの火曜日やないか!』に出演し話題を集めた。本記事では、『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部を抜粋・再編集しお届けする。
5つの締切でスムーズに仕事を進める
私はこれまでお笑いの作家として、2000本以上の漫才やコント、吉本新喜劇の台本と5000本以上の番組の構成台本を書いてきました。数字だけ見るとすごい本数と思われるかもしれませんが、1本1本の積み重ねがこのような大きな数字になっているだけで、当たり前ですが、一度に台本を書いたわけではありません。
膨大な量の仕事を遅延なくこなすために私は「締切を5段階にわける」ことをしています。締切を細かく設定することで、1回あたりの仕事量がグッと減るので、イマイチ調子が出ない日も無理なく、しかし着実に仕事を進めることができます。大事なのは「調子がいいときは100%」「悪いときは60%」と波を作らないことです。
実際にどのように締切を5段階にわけているのか紹介します。たとえば、期限は1週間で、新作コントの台本作成依頼があったとしましょう。ステップは5つです。
ステップ1 依頼があった日に隙間を見つけて15分間考える 達成目標20%
ステップ1ではほとんど状況整理で終わります。演者は誰で、どこで披露するコントなのか。要件を整理します。長い時間を確保するのは難しいので、取り組みやすいように長くても15分で終わらせるようにしています。最終的なネタ提出を100%とすると、ステップ1の達成目標は20%のイメージです。
整理した要件例
若手の男性トリオで舞台経験は少ない→セリフは少なめがいい
披露する舞台は大阪の劇場→お笑いに厳しい土地。関西弁で大丈夫
お客さんは20~30代が中心→新しい話題のネタが好まれる
ステップ2 翌日、ネタになりそうなテーマを書き出す 達成目標40%
ステップ1で整理した要件をもとにネタのテーマになりそうなものを書き出します。具体的なネタを書くのではなく、あくまでテーマの選び出しだけするのがポイントです。
例
コンビニエンスストアのコント→設定がわかりやすいから理解しやすい
駅のコント→大阪の有名な駅を舞台にしたら劇場らしいローカルネタにできる
学校のコント→お客さんが若い人たちだと共感を得やすい
その他どんなテーマでも最新情報を取り入れるのが必須条件
要件を満たせそうな設定を書き出せたらOKです。このときも、仕事の隙間を見つけて30分程度で考えるようにしています。
ひとつポイントがあります。もし可能であれば、ステップ2は、ステップ1の翌日に行いましょう。時間の経過とともに頭の情報が整理されるので、あえて時間を空けるのがおすすめです。翌日まで待てない人は1~2時間でもいいので、間を空けるようにしましょう。
ステップ3 コント設定をもとにネタの内容を考える 達成目標60%
ステップ2のコント設定をもとに具体的なネタづくりに入ります。それぞれのテーマでどんなことができるか、この段階でコントの骨子が出来上がります。
例
コンビニエンスストアのコント→3人とも店員役にして「バイトあるある」コントにする
駅のコント→始発設定にして、朝型と夜型の対比コントにする
学校のコント→体育祭でモテたい先生と生徒のコントにする
例として3つをそのまま出していますが、皆さんが仕事で企画を考えるときなどは、この段階でひとつのテーマに絞っても大丈夫です。この段階で意識することは、自分がお客さんだとしてイメージしやすいのはどれかという観点を持つことです。そのときどきによって正解は変わるので、「自分だったらこれ」と思ったものを選びましょう。
この段階でも時間は30分です。「もっと考えたい!」と思ったときも30分を延ばすのではなく、少し時間を置いて再度30分の時間を取るようにしましょう。そうすることによって、頭を常にフレッシュな状態に保つことができます。
ステップ4 台本にする 達成目標80%
ステップ4でほぼ完成です。決めたテーマをもとに実際の台本に仕上げていきます。細かいことを意識するよりも全体の流れを意識します。イメージとしてはボケとツッコミの分量がちょうどいいかなどを考えます。
例
書いた台本はボケ60%・ツッコミ40%になっているか(比率に正解はありません。あくまで目安です)
流れが破綻していないか
難しい言葉はないか
ステップ4ではじめて長い時間をかけます。それでも時間は60分程度です。ステップ3までの段階を踏めていれば、要件が整理できているため、60分あれば十分です。
ステップ5 細かい部分を整える 達成目標100%
最終段階です。台本のセリフなどを細かく直していきます。たとえば大阪弁は適切か、ツッコミの言葉遣いは適切かなど、よりわかりやすくするために細かく台本を見ていきます。
大阪弁は要所で使えているか(しつこくないか)
誰かが傷つくような言葉は入っていないか
ネタの長さは大丈夫か
大きな変更がなければ、最後も30分程度で確認するようにしています。ステップ1~5までの合計時間は3時間ないくらいです。別の仕事をしながらだと3時間のまとまった時間を取るのは難しいですが、分割することで、最終的にはしっかりと時間をかけることもできています。
コントづくりを例にしましたが、おそらくビジネスでも同じです。以下に、5ステップをビジネス用に言い換えたものを掲載しますので参考にしてみてください。
思考の締切5ステップ
1 仕事の要件を整理する 15分間 達成目標20%
2 要件を満たしたアイデアや解決策を書き出す 30分間 達成目標40%
3 気に入ったアイデアや解決策を深掘りする 30分間 達成目標60%
4 アイデア、解決策を形にする 60分間 達成目標80%
5 細かいディテールを確認する 30分間 達成目標100%
「とりあえず、あとで……」とならないためにも、少しずつ前に進むクセをつけていきましょう。