相続&生前贈与 65年ぶり大改正#6Photo:PIXTA

「仲の悪い次男よりも亡き長男の子供である孫に自宅を譲りたい」。古今東西、金があるところには必ずドラマが生まれる。相続は対策を失敗すると「争族」を招く。特集『相続&生前贈与 65年ぶり大改正』の#6では、専門家に相談の多い、相続を巡る3大トラブルの事例と解決法を紹介する。(ダイヤモンド編集部 野村聖子、監修/税理士法人弓家田・富山事務所代表社員、税理士・弓家田良彦)

「週刊ダイヤモンド」2023年1月7日・14日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

Q1
折り合いの悪い次男ではなく、亡き長男の子供(孫)に
自宅マンションを譲るため、家族信託を利用したい

 永野治さん(仮名・70代男性)は、自分と妻の双方が認知症になった場合に備え、元気なうちに高齢者施設への入居を決意。自宅マンションを賃貸に出すことにした。

 しかし、認知症になると、「意思能力がない」とされ、一切の法律行為に関われなくなる。備えの一つは、自宅マンションなど自分の財産管理を任せる「成年後見人」を選んでおくことだ。任意後見という方法なら、元気なうちに後見人を自分で選ぶことができる。

 しかし、成年後見人は、賃貸に出しているマンションのリフォームなど資産運用目的で被後見人の財産を動かすことは、よほど本人の利益に資すると判断されない限り、原則行うことはできない。

 また、永野さんは常々折り合いの悪い次男ではなく、亡き長男の子供である孫(19歳)に自宅マンションを相続させたいと考えていた。当の次男も遠方の地で家を建て、地元に戻ってくる予定はなさそうだ。

 そこで、永野さんは次男に内緒で、自宅マンションと預貯金1000万円全てを妻に相続させる旨の遺言書を書いた。さらに家賃収入を受け取る受益者として、孫(受託者)に自宅マンションの管理を任せること、自分の死後は妻に受益権を移行させ、妻の死後は孫に所有権が移行し名実共にマンションを孫に譲るという信託契約を結んだ。

 しかし、永野さんの死後に遺言書が公開され、生前自分に内緒で自宅マンションの信託契約を孫と結んでいたと知った次男は激怒。

 母である永野さんの妻、そして孫を相手取り、自らの遺留分625万円(相続人は妻と子供2人なので、弟の遺留分は自宅マンション4000万円+預貯金1000万円=計5000万円の8分の1)の侵害請求を起こした(下図参照)。

 いったいどう対応すればよかったのだろうか。次ページでは、今回のような家族信託に絡むトラブルに加え、事実婚のパートナーが亡くなった場合の遺族との対立など、専門家への相談が多い相続を巡る3大トラブルの事例と解決法をお届けする。