日本銀行は17~18日の金融政策決定会合で「現状維持」を決定したが、注目すべきは日銀と市場のいたちごっこを象徴するオペの拡充だ。さらに、提示が目前に迫る次期総裁の人選次第では、いたちごっこは激しさを増し、黒田東彦総裁在任中の追加の政策修正も現実味を帯びる。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
「現状維持」に妙手あり
日銀VS.市場は激化の一途
「イールドカーブ・コントロール(YCC)防衛の全面戦争に備えたものだ」――。
大規模な金融緩和策の「現状維持」が打ち出された17~18日の日銀の金融政策決定会合。だが、みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、ある見過ごせない重要な調整が行われたと指摘する。それは、共通担保資金供給オペ(共通担保オペ)の拡充だ。この変更は、長期金利への上昇圧力がかかる中、国債の金利低下を促すための日銀の苦肉の策ともいえる。
共通担保オペの流れを説明しよう。まず、日銀が金融機関から差し入れられた国債などを担保として資金を金融機関に貸し付ける。金融機関側はこの資金で、金利の付いた国債を買い入れれば、ノーリスクで利ざやを稼ぐ裁定取引が実現できるのだ。23年1月には、貸付期間2年の資金をゼロ金利で供給する、異例の共通担保オペ実施を日銀は迫られていた。
今回の拡充は、その延長線上にある。従来ゼロ%固定で貸し付けていた共通担保オペは、今後、貸し付けの都度金利を調整できるようにした。
小林氏は会合後のリポートで「単純化して言えば、今まで『10年の資金をゼロ金利で貸す』ことははばかられていたが、今後は『10年の資金を0.3%で貸す』ことが可能となる。その結果として、金融機関が『0.3%で借りた資金で、0.4%の利回りの10年物日本国債を購入する』ことを日本銀行は期待することになる」と説明する。
つまり、5年物や10年物の国債を含めて、先述のような裁定取引をより強力に働かせることが可能になる。会合結果発表後の記者会見での黒田東彦総裁の言葉を借りれば、「現物国債の需給に直接的な影響を与えることなく、長めの金利の低下を促すことができる」。
振り返れば、昨春からの円安と金利上昇により、「日銀VS.市場」はつばぜり合いを繰り広げてきた。両者のいたちごっこの“第一幕”といえよう。
そして、長短金利許容幅拡大による混乱を起こした昨年12月20日の会合と今回のオペの修正で、「日銀VS.市場」のいたちごっこは“第二幕”へ突入したのだ。第二幕では、日銀は何を舞台に市場と戦うのか。
次ページでは、日銀が政策修正後に陥った自縄自縛の実相に迫った上で、3月に予定される黒田総裁「最後の会合」において、どのような政策変更があり得るのかを分析する。専門家からは、金利上限倍増の大胆予想も飛び出している。