民主社会のための弁護士会(民弁)と参与連帯など七つの市民団体で構成された国家情報院監視ネットワークは民主労総に家宅捜索が入った1月18日、「国家保安法違反容疑で捜査中の事件を口実に、民主労総を相手に見せしめのような家宅捜索とメディア利用で、国家情報院改革の核心である対共捜査権移管を戻そうとする意図ではないかと疑われる」との声明を出した。

 こうした市民団体と民主労総の連携で北朝鮮のスパイ活動取り締まりをけん制するのも、北朝鮮スパイの謀略ではないだろうか。

文在寅政権で中断した
スパイ活動への本格捜査

 文在寅政権時代の国家情報院が、民主労総の中心幹部による北朝鮮工作員との接触を確認した時期は2017年であった。だが、本格的な捜査が行われるまでは6年の歳月と政権交代を待たねばならなかった。

 スパイ防止当局関係者は「当時、文在寅政権の国家情報院幹部が南北関係などを理由に事実上捜査を握りつぶして先送りしたと聞いている」と語った。

 労組・市民団体の幹部が東南アジアで北朝鮮の工作員に会った証拠をスパイ防止当局が確保しても、北朝鮮との関係に亀裂が入ることを恐れ、国家保安法違反による捜査を本格化できなかった。

 元安全保障担当者が「スパイ容疑の証拠が積み上がっており、捜査の幅を広げるべきだ」と報告しても、上層部は逃げ回って判断を示さなかったという。

 18年から19年にかけ、スパイ防止当局は今回捜査を実施した民主労総の元・現幹部による国家保安法違反疑惑以外にも、スパイ疑惑事件の証拠を相当数確保していた。

 これに危機感を覚えたのか、文在寅前政権は2020年11月、国会で圧倒的に優位な議席を占めることを利用し、国家情報院法改正案を単独で強行処理し、2024年1月から国家情報院の対共捜査権が警察に移ることになる。この件は当時の朴智元(パク・チウォン)院長が主導した。

 文在寅政権下でも、2021年に国家情報院の一部職員が「清州スパイ組織事件」を捜査し、起訴を通じて事件が明るみに出たことはあったが、総じて国家情報院の対共捜査は事実上中断されてきた。

 今回の捜査は、尹錫悦政権になって初めての本格的な対共捜査権の行使である。