日本M&Aセンター 砂上の「絶対王者」 #2Photo:B.S.P.I./gettyimages

2022年3月、不適切会計に関与したとして、日本M&Aセンターの部長5人に諭旨解雇処分が下された。その一方で、三宅卓社長以下の取締役に対する処分は報酬減額と降格にとどまる。その処分の差に、日本M&Aセンター社内で諦めと落胆が広がり、幹部の退職が相次いでいる。業績に悪影響を与えるのは間違いない情勢だ。特集『日本M&Aセンター 砂上の「絶対王者」』(全6回)の#2では、退職者が続出する「絶対王者」の現状をレポートする。

不祥事の処分がきっかけで
社員に広がる諦めと落胆

 M&A(企業の合併・買収)の際に、売り手企業と買い手企業の間に立ってM&Aを成立させるM&A仲介業。売上高と利益でその「絶対王者」に君臨する日本M&Aセンターホールディングス(HD)の力の源泉は、人材にある。

 営業を担うコンサルタント数は2022年12月末で610人に到達し、競合他社を圧倒する。

 M&A仲介会社は中小企業の事業承継の担い手であり、地方銀行など協業する企業も多い。地銀の取引先である地方の中小企業が事業承継をする際、ノウハウを持つ仲介会社とタッグを組むのだ。

 存在感と公共性が高まるM&A仲介会社の中で、最大手の日本M&AセンターHDには、高いコンプライアンス意識と高度なガバナンスが求められるのは言うまでもない。

 だが21年12月、売上高の不適切な計上が発覚。調査報告書によれば、売上高の目標達成へ向けた厳しいプレッシャーがあり、それが不正につながった(本特集#1『日本M&Aセンター“不適切会計”の深層、調査報告書が描かなかった「地獄の部長会議」』参照)。

 日本M&Aセンターは22年2月、三宅卓社長や営業本部長だった竹内直樹取締役(当時常務取締役)らの処分を公表。その翌月には、不正に関わった社員93人の懲戒処分を発表した。

 だが、その内容を見た社員たちの間では、諦めと落胆が広がっていた。取締役は報酬減額と降格だった一方で、現場に対しては部長5人の諭旨解雇を含む厳しい処分が下されたからだ。不適切会計の経緯を知る現役社員は取締役の処分が甘いと見なし、その影響もあって退職者が続出しているとみられる。

 経営者が下す人事施策は、社員に強いメッセージを発する。その施策を間違えれば業績はもちろん、会社組織の士気、経営者と社員との間の信頼関係に大きく影響を及ぼす。

 今の日本M&Aセンターには、その悪影響が端的に表れている。次ページで退職が相次ぐ実情と、それが会社に及ぼす影響を、一部の退職者の実名と共にレポートする。