妻の浮気がきっかけで離婚
子どもと会うことを禁止された夫のケース
離婚はしないに越したことはありません。――これは、30年以上という長きにわたり3万8000件の夫婦問題を解決に導いてきた私の持論です。ですが、時には離婚したことで自分らしさを取り戻すケースもあります。
「私たち夫婦がうまくいかなくなったきっかけは、妻の浮気でした」と話すのはT也さん(51歳・経営者)。T也さんは20代で6歳年下の元CAと結婚、一人娘と3人で暮らしていました。「30代半ばは仕事がもっとも忙しく、週末も帰宅できないことが多かった。家事や育児はほとんど妻に任せきりでした」というT也さんが、妻の浮気を知ったのもその頃だったといいます。「私の昔からの友人が『奥さんが男と手をつないで歩いているのを見かけたよ』と知らせてくれたんです」。
T也さんが問いただしたところ、妻は「ごめんなさい。あなたは仕事ばかりで私に構ってくれなかったから、さびしかったの」とアッサリ浮気を自白。「でも、相手の男性とはもう会わないわ」と約束したのでした。
ところが、それ以降、夫婦仲はすっかりギクシャクしてしまったとのこと。「ストレスをためこむ一方の妻はいつでもイライラし、娘に対してもヒステリックに接するようになりました。私のほうも、帰宅が夜遅くなったり、出張したりするときは『また妻が浮気をするのでは?』と疑うようになって、家庭内の雰囲気は日を追うごとに悪化していきました」。
T也さんが離婚を決意したのは、それから1年後のことでした。「夫婦の会話もなくなってしまった家で暮らすことに耐えられない。このままでは小学生の娘にもよくない影響があるはずだし、お互いに人生を無駄にするだけだ」と考え、妻に離婚を切り出しました。
「養育費がもらえれば慰謝料は要らない、
娘には成人するまで会わないでほしい」
妻は離婚を受け入れたものの、「養育費は毎月支払ってもらいたいが、私にも責任があることなので慰謝料は要りません。そのかわり、娘には成人するまで会わないでほしい」と条件を出してきたそうです。
T也さんいわく、「娘の成長を見ることができないのは本当につらいことだったが、もっと苦しいのは両親が憎み合っている家庭で育つことだと思った。別れても、娘は娘。せめて父親として教育面や環境面でこれ以上、不自由はさせないようにしたかった」。そしてT也さんは離婚後、毎月支払う養育費とは別に「いつか娘が必要になったときに渡せるように」と積み立てを始めました。
それから10年以上たち、突然、「大学卒業後、アメリカのロースクールに通いたい」と、元妻に携帯電話の番号を聞いたという娘から、T也さんに相談の電話がかかってきました。娘と待ち合わせをして久しぶりに会い、学費には十分すぎるお金を渡したところ「やっぱりパパは頼りになるね」と満面の笑顔で感謝されたといいます。「妻のおかげで娘はとてもいい子に育っていました。私たちが離婚したことについても一言も責めることもなく、『これでまたパパと普通に会えるようになったね。もちろん引き続き、お小遣いはちゃんともらうからね』と冗談っぽく言われたときは、うれしくて思わず涙が出てしまいました」。
T也さんと娘は、定期的に二人で会って食事をするようになり、時々は元妻の話も会話に出るとのこと。「シングルマザーとして彼女には相当な苦労をさせたと思いますが、離婚してからお互いに対する感情が安定したのは事実。当時は、『娘のためにも離婚だけは避けたい』とずいぶん悩んだものですが、今となっては『離婚をしたのは間違いではなかった』と思えるようになりました。元妻にも感謝しています」。