植田新総裁の金融政策は?
YCCの行方が焦点

 植田総裁体制の日銀の金融政策はどうなるか。興味と注目はこの一点に集中する。

 大方の見方は、短期金利とともに長期金利も制御する「イールドカーブ・コントロール政策(YCC)」の解除ないし、金利制御の上下範囲の拡大は遠からず行われるだろうが、金融緩和政策は継続するのではないかというものだ。

 植田氏は、まだ人事案が国会へ提示される前の段階でのインタビューでだが、早々に金融緩和継続が妥当だとの意見を表明している。植田氏も、総裁を任命する側の首相官邸側も、今回の人事が市場に「ショック」をもたらすことを恐れている。

 今のところ、「大方の見方」に異を唱えるに足る材料はない。今後を推測する上で、植田氏の過去の言動にあって燦然(さんぜん)と輝くのは、かつて日銀の審議委員時代にゼロ金利解除に対して反対票を投じた行動だ。結果から見てゼロ金利解除は早すぎて、日本のデフレが継続する要因になった。植田氏の判断が正しかったのである。

 この一件から、植田新総裁は金融緩和政策からの早めの転換には消極的だろうとの推測が成り立つ。

 今のところ株式などの市場関係者は、雨宮氏が総裁になる場合に予想される金融緩和姿勢ほどではないにしても、植田総裁でも緩和路線は継続するだろうと一安心しているように見える。

 一方、長短両方の金利を政策的な操作の対象として、特に長期金利の指標となっている10年国債の利回りの上下変動範囲を限るYCCに対しては、「10年のような残存期間の長い債券は政策対象にふさわしくない」との意見を過去に表明している。何らかの見直しが早期に行われることが見込まれる。

 利回りによって価格が大きく動き、従って大きな損益が発生し、しかも市場規模が大きく指標性も高いのが10年国債だ。その利回り変動範囲に、明確な数字で上下の幅を示すスタイルには無理がある。

 YCC導入当初は将来に対する日銀の決意を強調する効果があるのだが、「出口」の段階では明らかに投機のターゲットになりやすい。多くの金融関係者、市場関係者がそう思っていたはずだし、海外の金融政策筋からも懸念の声が聞かれる。少なくとも数万人単位の金融のプロが「大丈夫なのか?」と心配しているはずだ。YCCは黒田東彦総裁体制で導入された、いささか厄介な置き土産だ。