日銀新総裁となる見込みの植田氏
2%物価安定目標は必要との立場
金融政策を熟知する高名な経済学者で、日本銀行の元政策委員会審議委員も経験された植田和男氏が次期日銀総裁に就く見込みとなり、バランス感覚の高さから安心感が広がっている。
本稿では、植田氏が昨年7月に日本経済新聞の経済教室に寄稿した論考(*注1)を基に、今後の日銀の金融政策の方向性を考える上で重要なポイントとして、(1)2%物価安定目標とインフレ基調、(2)今後の金融政策方針(フォワードガイダンス)と10年物金利の微調整の関係、(3)出口戦略について考察したい。
まず、(1)について、2%物価安定目標を巡る植田教授の見解としては、利下げ余地をつくるために必要と考えているようだ。過去25年間の日本では、短期金利の下げ余地がほとんどない「実効下限制約」に直面する状態が続いたことが日本の中長期成長率を下押しした可能性を指摘する。
つまり、経済成長率を高める上でも2%目標の維持が欠かせない、と考えているように映る。欧米の中央銀行も2%目標を掲げているのは、実効下限制約を回避するためで同様の理由からだ。
一方で植田教授は、現在インフレ率が2%を超えていても、安定的に2%インフレを実現する状態にはないと判断している。
その理由として、欧米型のコアインフレ率(エネルギーの他、生鮮食品だけでなく全ての食料を除くインフレ率)が低い水準にあること、多くのエコノミストが2023年後半にインフレ率が2%を下回り現在の高いインフレ率は持続性がないと予測していること、そして23年は世界景気減速で外需が低迷し日本への逆風となる点を挙げている。
このため、日本では超円安が進行した昨年に利上げすべきとの見方が広がったが、そうした考えは一蹴している。円安を抑えるための利上げは、景気後退とともに2%インフレ目標の実現を阻むことにつながるためだ。むしろ現状を維持し、低所得者を対象に政府の財政措置を組み合わせるべきだとして政策協調を訴える。
現在のインフレ基調が低い点は以前、筆者も同一の見解(*注2)を示した。現在の欧米型コアインフレ率は22年12月時点で1.6%、その中で大きな比重を占めるサービスインフレ率が0.8%の日本では、2%を安定的に実現できる状態とは言い難い。
以降では、今後の金融政策や出口戦略などについて、植田教授の考え方をさらに深掘りし、分析を試みていく。