今回のトラブルは
どのように起きたのか
ではJR西日本は具体的にどのような体制を取っていたのか。同社は降雪による大規模な輸送障害は発生しないと判断していたが、降雪以外の要因による輸送障害に備え、近畿総合指令所内に管理職2人からなる「輸送対策室」を24日9時に設置した。15時過ぎに強風による飛来物などでダイヤ乱れが発生し始めたことで、夕方から順次、応援が加わり、対策室は14人の体制となった。
そうした中、18時過ぎから京都市内で雪が降り始める。日中に5度前後だった気温は一気に氷点下に転じ、降り始めから1時間で7センチの降雪となった。寒さで線路に積もった雪は凍結。19時00分に向日町駅でポイント不転換が発生し、この時点で下り3個列車が駅間に停車した。
続いて19時36分に山科駅、20時15分に京都駅でポイント不転換が発生し、次々と列車が立ち往生していく。輸送対策室は現地に急行した係員に状況を確認するが、ポイントが完全に凍り付き、バーナーであぶっても氷が溶けないとの報告が入る。しかし20時45分、輸送対策室は乗客を降車させて避難させるのではなく、復旧作業の優先を決定した。
背景には夜間、雪が降る寒空の下で、列車によっては1キロ以上を徒歩で避難させるのはリスクが大きいという判断があったが、この時点で既に駅間停車が1時間45分に達する列車があり、復旧に固執する姿勢は完全に誤りであった。
会見で代表取締役副社長兼鉄道本部長の中村圭二郎氏は、21時過ぎに社外の「友人」から多数の列車が駅間停車するトラブルが生じていることを知らされたと明かした。指令所で重要な決定が進む一方で、全社的な情報共有が遅れていたことも一因であった。
情報不足は現場でも同様だった。20時以降、駅間停車列車6本の乗務員から延べ23回に及ぶ救援要請が入ったが、輸送対策室と指令所は各駅、各列車など個別対応に追われ、大局的な見地で方針を決定することができなかった。
JR京都線・琵琶湖線のデジタル列車無線は、全列車が受信できる一斉通話、指令所から指定列車への通話、列車から指令所の呼び出しなどの機能を有する。通常、輸送障害発生時は指令所から各列車に復旧状況、運転再開のめどを送信し、これを受けて各列車の車掌は乗客に情報提供する。
しかし今回は輸送対策室が情報の集約・整理ができず、メールや列車無線での情報提供が行われなかった。デジタル無線で個別に通話可能なのは一定エリアあたり2個列車に限られるため、運転指示に関する通話が優先され、救援や避難を求める列車との通信ができなかった。
これについて同社は会見で、2017年のN700系新幹線の台車に亀裂が発生した重大インシデント以降、現場から指令所に報告し、判断を仰ぐ仕組みを構築したものの、小さなトラブルでは効果的だが大規模な事象では通用しないと反省の弁を述べた。
もちろんどちらが正しいという話ではなく、状況に応じた使い分けが必要である。JR西日本に限らず列車無線の同時接続数には制限があり、大雪のみならず地震など多数の列車が同時に立ち往生した場合は、限られた指令員と限られた回線で優先順位を付けて対応するしかない。そうした場面では現場の判断を優先する仕組みとマインドの構築が求められる。
さらに時間が経過した22時25分、ようやく指令所内に対策本部が設置され、40分から対策本部会議を開催。ようやく復旧のめどが立たない列車からの乗客の降車を決定した。23時頃から順次、降車を開始したが、全列車の避難が完了したのは翌日5時30分のことだった。乗客が車内に閉じ込められた時間は最大9時間50分にも及んだ。