ベストプラクティスを捨て「未来を創造する企業」が生き残る(前編)藤井剛(モニター デロイト ジャパンリーダー)
デロイトの戦略プラクティス、モニター デロイトのジャパンリーダー。社会課題解決と競争戦略を融合した経営モデル(CSV)への企業変革に長年取り組む。デロイト トーマツ コンサルティングのCVO(chief value officer)を兼務。著書に『CSV時代のイノベーション戦略』(ファーストプレス)、共著に『SDGsが問いかける経営の未来』(日本経済新聞出版)など。

3年前のコロナ禍突入で、景気低迷とサプライチェーン分断。1年前のウクライナ紛争で、コストプッシュ型インフレ拡大。文字通りの不確実性の時代、先が見えない中で、経営者は何をなすべきか。ピーター・ドラッカーは「未来を予言する最善の方法は、未来を作り出すことである」と述べていたが、5年前に同様の提言をしていたコンサルティングファーム戦略グループの日本代表に、その方法論を聞いた。前編と後編の2回に分けてお届けする。(聞き手/経営戦略デザインラボ 編集長 大坪亮、文・撮影/嶺竜一)

内発的な変革を志向する
先進企業

──貴社(モニター デロイト)が2018年6月に日本でサービスを開始されてから、間もなく5年となります。5年前、貴社のプリンシパルのスティーブン・ゴールドバッシュ氏にインタビューした際、「業界やビジネスの構造が一変するディスラプションが起きた際、多くの企業は、その変化に対応すべく、自らも変革しなければいけないことを理解しながらも、過去の成功体験や既存の組織文化などに縛られて、なかなか行動に踏み切れていません」と話されていました。この5年間、日本企業にどのようなコンサルティングをされてきましたか。

 モニターグループの発祥は1983年にハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーターらの教授陣が設立した戦略コンサルティングファームですが、2013年にデロイト ・ネットワークに加わってモニター デロイトに改名し、今日に至ります。

 そのモニター デロイトが2018年に日本でコンサルティングサービスを開始した際に持っていた問題意識は、世界中の企業が直面しているポスト資本主義とデジタルディスラプション(デジタルにより産業構造が破壊されること)の2つの潮流に適応できる経営戦略が、日本企業でも強く求められていることにありました。

 経営戦略策定においては、一般的に、まずPEST分析(外部環境を政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つに分類し、それぞれの変化から受ける影響を読み解く分析手法)が行われます。かつて多くの企業は、PESTの中でもSはそれほど重視せず、Tも技術ロードマップにのっとったリニアな未来の見立てにとどまっていました。私たちは、当時SとTが企業に与える影響が強まると予見し、分析の仕方を変化させてきました。

 2018年に書籍『SDGsが問いかける経営の未来』(日本経済新聞出版)を世に問い、ポスト資本主義とサステナビリティー(持続可能性)を組み込んだ経営の在り方を示しています。私たちがこの書籍を出した同年は、ちょうど、日本企業においても、経営にサステナビリティーをいかに組み込んでいくかという課題がクローズアップされ始める勃興期でした。

──2015年に国連でSDGsが採択され、2017年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG指数を投資指標として選定したことで、日本でも経営方針にサステナビリティーの考え方が埋め込まれる流れが勢いづきました。

 2018年以降の5年間の当社へのオファーは、私たちの予想通り、SとTの2つの外部要因に対応した経営戦略を考えるものが大半を占めました。

 Sについては、地球温暖化を前提としたシナリオプランニングに基づく施策を提案したり、経営にサステナビリティーをいかに埋め込んでいくか、そのビジネスを社会価値にどうつなげていくかといった戦略を顧客企業とともに考えたり、してきました。

 一方、Tについては、デジタル関連を中心に、クラウド、ビッグデータ、IoT、AIなどのテクノロジーの急激な進化によって、デジタルディスラプションが多発するようになりました。さまざまなテクノロジーがエクスポネンシャル(指数関数的)に進化する中、企業自身がエクスポネンシャルな成長を目指すためには自己変革が必要、と説いていきました。

 そうした状況下に、コロナ禍が起き、ウクライナ紛争が始まりました。こうした潮流と、不確実性が急激に高まる中、単に時代の変化を読んで、それに受動的に対応することの限界が明らかになってきました。

 そして、内発的な変革を目指す企業が増え始めたのです。この変化は、モニター デロイトが取り組んできたアジェンダが、メインストリームとして経営者の課題の真ん中にシフトしたことと一致します。

──内発的な変革とは、どのようなものでしょうか。

 思想的に近しいのは、マサチューセッツ工科大学スローン校経営学部上級講師であるC・オットー・シャーマー博士によって生み出されたU理論(過去の延長線上ではない変容やイノベーションを起こすための原理と実践の手法を明示した理論)です。深い内省に基づく経営です。

 内発的な変革は、パーパスの再定義、あるいは長期ビジョンの再定義へとつながったと思います。社会がどうあるべきかということをまず考え、それに対して我が社はどう貢献できるのか、自分たちは社会に対してどういう価値を提供する存在なのか、こうしたことの再定義を、先進企業は始めたのです。

 私たちへの相談案件も、従来型の経営戦略・事業戦略策定でなく、自社の存在意義を強く再認識した上で、抜本的に企業の在り方を変えていくものが大半になっています。