書影『2035年の世界地図』『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)
エマニュエル・トッド 著/マルクス・ガブリエル 著/ジャック・アタリ 著/ブランコ・ミラノビッチ 著/東 浩紀 著/市原 麻衣子 著/小川 さやか 著/與那覇 潤 著

――多くの思想家が、ロシアのウクライナ侵攻に直面し、世界が進めてきた経済統合が自由を促進するのではなく、権威主義的な支配者に利用されかねないことを指摘しています。私たちは、大きなグローバル化の終焉を目撃しているのでしょうか。それとも、一時的な後退なのでしょうか。あなたはどう思われますか。

 一時的な試練であり、一時的な後退ととらえています。この一時的な後退は、悲惨な事態になるかもしれませんが、それでも一時的です。人類は90億人になるのですから。何が起ころうと、この90億人は、ますます多くのものを購入し、生産する必要があります。ですから、インド、アフリカ、ラテンアメリカにおける成長の推進力は、新しい種類のグローバル化を大きく後押しするでしょう。つまり、グローバル化を止めるわけではありません。

「EUの成否」が
グローバル化のカギを握る

――ロシアの侵攻後、EUとアメリカは非常に強い反応を示しました。この反応は、特にEUの経済的・政治的統合の将来について、何を語っているのでしょうか。

 安定したグローバル化を、世界レベルで成功させることはできません。欧州レベルでもできていないのですから。ですから、認識するのが必要なのは、「EUの成否が、今後のグローバル化の指標だ」ということです。

 もしEUが失敗すれば――それは十分にあり得ることですが――、グローバルなレベルでの成功は望めません。5億人で失敗したのなら、90億人で成功するわけがないでしょう。

 ですから、EUの進化は何が起こるか理解するために重要なものだ、と言えます。

 今さら失敗はできません。EUから脱退しようとする国は、多くのものを失います。以前は、ポーランド、ハンガリー、スウェーデン、イタリア、さらにはフランスの野党さえも、EUから脱退する誘惑に駆られるかもしれない、と言っていました。

 考え方は変わり、今ではどの国もそんなことは言っていません。どの国も「脱退したい」と言わないだけではなく、10カ国以上がEUのドアを叩いて加盟を希望しているのです。ウクライナ、モルドバだけでなく、アルメニア、アルバニア、セルビア、北マケドニア、その他多数です。EUにとっての問題はさらに前進することです。EUの次のステップは、持続可能になり、崩壊しないことですが、それは可能だと思います。

 ただ、同時に、崩壊する可能性もあると思います。成功するとすれば、今後10年間の主要な課題に焦点を当てることができた場合です。それは、軍事問題におけるヨーロッパの結束を築くことです。欧州の防衛が次のステップになるでしょうね。

ジャック・アタリ
経済学者、思想家。
1943年アルジェリア生まれ。経済はもちろん、政治や文化芸術にも造詣が深く、あらゆる主題を網羅した文筆活動を行っている。ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の誕生などを的中させたことでも知られる。主な著書に『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(作品社)、『2030年ジャック・アタリの未来予測――不確実な世の中をサバイブせよ!』『海の歴史』(プレジデント社)など。