そして、それを情報だけでなく、メンバーの能力の話にまで敷衍(ふえん)して、説教していました。

「私の若い頃は、必死で事前にいろんな人にヒアリングをしてから提案書を書いたものだ。少し仕事ができるからといって自分を過信してはいけない。心構えがなっていない。まだまだだな。顧客のことを考えるという仕事の原点がわかっていない……云々」

 これでマネジャーは自分のプライドが守られて、大満足。説教というものは、やっている本人はプライドが大いにくすぐられて楽しいものです。しかし、説教されている人にとってはただの苦痛でしょう。

 マネジャーの言っていることが仮に正しい指摘だとしても、それを素直に聞き入れようとはしないものです。

「脱」情報独占でメンバーが変わり始めた!

 あるとき、私はこうした情報独占によるプライドの維持・強化という道を捨ててしまいました。

 たとえばメンバーに対して、あらかじめ以下のように伝えるようにしたのです。

「私は、以前にこの顧客とトラブルを起こしてね。この人には、こういう持っていき方をすると駄目なんだよ。自分なりに分析すると、先方の組織力学の問題があるように思うんだよね」

 このように、自分の失敗を積極的にさらけ出し、そこから得られた意味合いを事前にアドバイスすることで、つまらないミスを防いでもらうようにし始めたのです。

 正直、最初は自分の手の内をすべてさらけ出すことに少し抵抗の気持ちがあったのも事実です。

 ただ、こういう方針でメンバーに接するようになってから、少しずつ、メンバーの表情が変わり始めました。そして、メンバーが徐々に、ミーティングで口を開くようになりました。「いま、山本さんが言ったことは、こういう解釈で良いですか?」「先ほどの説明で、わからないことがあるのですが」「先ほどの山本さんの話と、いまの話は矛盾するように思うんですが」──こんな質問が出てくるようになったのです。

 これは「知らしむべし作戦」です。何か仕事を一緒に始める時に、わかっている情報はすべて事前に共有する。そして、教育指導に励むわけです。

 当初、すべての情報を事前に与えてしまったら、メンバーはそれ以上考えることを放棄してしまうのでは、という懸念もありました。

 しかし、現実は逆でした。メンバーは自分たちで考えて、自発的に動くようになったのです。まさに、「由(よ)らしむべからず(頼らせない)」というように、組織が変わっていきました。

 いまならその理由がわかります。フラットな組織においては、情報共有こそがメンバーのやる気を引き出す最初の重要な条件だからです。

 共有すべき情報というのは、単に会社の経営数字や顧客の情報などに限りません。マネジャーである自分の悩みや苦労、そして過去の失敗。これらもすべて共有してしまえば良いのです。

 これは現場での意識的人材育成のための教育指導を充実させることに繋がります。かつてのOJTを中心とした現場教育は、ピラミッド型の組織がしっかりできている時だけ可能です。

 いまは、就職氷河期もあり、現場のピラミッドが保たれていない企業組織が目立ちます。これではOJTは実現できません。代わって、意識的教育でもある徹底的情報共有が重要になるのです。