そろりそろり歩いて、公園に着いてみると……あっ、いた!

 子ども用のブランコに角刈りのいい大人が乗って、ひとりで漕いでいる。目ざとく私を見るとすぐにブランコを降りて、公園の反対側に駆けだした。

 私も仕方なく、ゆっくりと公園を横切り、通りに出る。ヒコさんはすでに100メートル先で、こっちを振り返りながら歩いていた。よたよたと腰を気にしながら追いかける。次第に距離が縮まると、また駆けだして通りの先の角を左に曲がって姿が見えなくなった。

 トタン塀のその角地は鉄工所の資材置き場で、そこを曲がると神社がある。そこで姿が見えなかったらあきらめよう、と思いながら塀の角を曲がると、突き当たりの赤い鳥居の下にヒコさんがいた。私を待っているかのように立っていた。

「ヒコさ~ん、お風呂に入ってごはん食べよう~! 今夜はヒコさんの大好きな唐揚げだよ~」

 遠くから声をかけてみたが、ヒコさんはまたもや背中を見せて石段を駆けのぼって逃げていく。石段の上には本殿がある。鳥居の下に着いて上を見ると、ヒコさんは60段くらい先で立ち止まり、こっちの様子をうかがっている。一気に距離を詰めてこない私を不思議そうに見ているのだ。

 ヒコさん、私は腰が悪いんだ。だから、もう帰りたいのだよ。しかし見失ってはいないから帰るわけにはいかないのだよ。……といっても、わっかんないだろうなあ。

 根が生真面目な性分の私は、見失わない限りどこまでもついて行くしかないような気がしていた。腰に力が入らなくたって、日ごろ鍛えている大腿四頭筋の力でなんとか石段をのぼれる。頂上までのぼり切ると、向こう側にくだりの石段が続いていた。

 小山の向こう側は初めて見たが、住宅やアパートに工務店や小さな修理工場が混在した変わり映えのしない風景だった。石段をくだり、通りに出るとすぐの民家のブロック塀の前で、ヒコさんは逃げるのをやめた。

 どうして気が変わったのかわからない。捕まえる気があるのかないのかわからない追いかけ方に調子が狂ったのかもしれない。あるいは、ただお腹が空いて夕食を食べたくなっただけかもしれない。