野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、元日銀審議委員・木内登英Photo by Yasuyuki Nishii

4月9日から、植田和男総裁の下での日本銀行の新体制がスタートする。今後5年の最重要課題は、低迷する金利や、日銀による大量購入で国債や株式市場を“管理相場”化させてしまった金融政策の正常化だ。しかし、欧米で金融不安が再燃するなど新たな不透明要因が加わる。白川方明総裁、黒田東彦総裁時代に日銀審議委員として、異次元緩和に至る内側を見てきた木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは、「植田日銀は黒田流とは逆の市場との対話を重視する伝統的なアプローチを取りながら、2024年半ば以降、マイナス金利解除などに踏み出すが、米経済次第では正常化シナリオが後にずれる可能性がある」と語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

弊害の方が大きかった異次元緩和
課題設定自体が間違っていた

――10年間の異次元緩和の時代が終わります。8日に任期を終える黒田総裁は3月の最後の政策決定会合後の会見でも、デフレ脱却や雇用増加の効果を自画自賛する形でしたが、功罪をどのように評価しますか。

 黒田日銀では、2%物価目標導入のほか大量の国債やETF買い入れなどの従来は禁じ手と考えられていた手法も含めて、さまざまなことが行われました。しかし、経済への影響や効果は小さかったと思います。

 もともと課題の設定が間違っていたからです。

 日本経済が直面していた課題は、生産性や潜在成長力の低下でした。金融政策は一時的なショックで需要が落ち込んだ際に金利を下げて投資を促し将来の需要を前取りする効果はあるものの、成長力自体を高めることにはなりません。

 成長停滞の状況で、物価を上げるために金融政策を使うこと自体が間違っていました。限界があったのです。

 需要の前取り効果にしても、異次元緩和を始めた時はすでに金利が低い状況でした。この10年でも短期金利は0.2%ほどしか下がっていないし、長期金利も一時的にはマイナスになりましたが、いまも0.5%程度。金利低下の影響も限られたものです。

 金利操作以外の国債を買ってマネーの量を増やしたり、ETFを買ったりした経済への効果はあまり明確ではありません。むしろ金融市場の機能低下や財政規律の弛緩(しかん)を招くなど、中長期的に見れば、効果よりは弊害が大きかったと思います。