日本銀行の黒田東彦総裁の後継に、経済学者の植田和男氏が起用される。アベノミクスの象徴だった異次元緩和は「2%物価目標」を実現できず、国債市場の機能は低下。財政規律が緩んで国債残高は1042兆円(2022年度末)まで膨らんだ。新総裁は、金融政策の正常化や国債市場の機能回復に加え、停滞した日本経済を金利を復活させながら活性化させる難しいかじ取りが求められる。日銀新体制の金融政策の行方と課題や異次元緩和の功罪を、元日銀理事の早川英男・東京財団政策研究所主席研究員に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
異次元緩和に当初から二つの疑問
経済停滞はデフレのせいじゃない
――異次元緩和は「大実験だったが失敗だった」と言われてきました。改めて黒田総裁10年の金融政策をどう考えますか。
異次元緩和には当初から二つの疑問がありました。
一つは、お金の量を増やせば経済は回るのかという問題です。国債買い入れなどでマネタリーベースを2倍にすれば物価が上がり、経済が成長するというのが当初の主張でした。私はそうはならないと思っていたものの、為替や株式市場が反応することはあり得ます。当時、バーナンキ元米連邦準備制度理事会(FRB)議長も、「理論的には駄目でも実現できる可能性はある」と言っていました。結局、やってみないと分からない面がありました。
しかし、その答えは1~2年ほどで早くも出ました。円安・株高になったものの、賃金はそれほど上がらず、物価上昇も持続しませんでした。安倍政権は「官製春闘」で賃上げに力を入れたけれど、結局、異次元緩和が描いたシナリオのように経済は回りませんでした。
二つ目はより根源的な疑問で、日本経済の長期停滞は物価が上がらないことが原因なのか、という問題です。黒田総裁やリフレ派は、「デフレのせいで日本経済が停滞している。だから物価が上がれば経済は上向く」という考え方です。一方で、主流派など多くの経済学者は、「物価が上がらないのは実体経済の停滞の結果だ」と、異次元緩和にも懐疑的でした。
この答えはなかなか出ませんでしたが、最近、はっきりしました。ウクライナ戦争などで物価は上がったけれど、経済はそれほど変わっていない。物価が上がればうまくいくわけではないと、根本的に間違いだと分かりました。
当初から実験的な政策でしたが、失敗はある時期からはっきりしていた。もっと前にやめるべきでした。