植田和男新総裁の日本銀行の新体制が、9日スタートした。市場の注目は、金融政策の正常化をどう進めるかなのだが、別の視点で「植田日銀」を注視するのが、安倍晋三元首相の掲げたアベノミクスを理論面で支えたブレーンたちだ。黒田東彦前総裁の人選にも関与した本田悦朗元内閣官房参与は、「アベノミクスは消費増税などで足を引っ張られて道半ば。日銀は2%物価目標達成まで金融緩和は根気強く続ける必要がある」と、黒田路線の継続を求める。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
アベノミクスがプラスだったことは明白
非正規でも多くの人が仕事を得た
――異次元緩和はアベノミクスの象徴でした。10年間の功罪をどう考えますか。
アベノミクスをやっていなかったら日本経済はどうなっていたかと考えれば、プラスだったことは明白です。
一番、効果がはっきりしているのは雇用。新就業者数が約500万人増えました。バブル崩壊や金融危機後のデフレの真っただ中、リーマンショックや東日本大震災も起きて職探しをあきらめていた人が仕事を得ることができた。アベノミクスの前までは就職氷河期世代といわれていた大学新卒者の就職難も、明らかに改善されました。
円高が是正されて株価が上がり、企業収益が改善し企業が雇用に前向きになったからです。非正規雇用が多かったことは確かですが、経済が底を打ち始めた時に最初から正規社員の雇用を増やすのは無理がある。
非正規から入って正規に移行する人もいるし、それぞれの生活事情に応じて例えば8時間労働は無理だけど6時間はできるなどといった、主婦や一度退職した世代も含めて多くの人が仕事を得たわけです。
アベノミクスはマイナスだったとか、異次元緩和の弊害を強調する人もいます。ですが、実体経済は良くなったのです。過去よりも悪くなったことはありますか。金利が下がったり国債市場のボラティリティがなくなったりしたことで債券ディーラーは困るかもしれないが、経済政策は彼らのためにやるのではありません。
国民の経済活動を活性化するために低金利政策が必要なのです。金利を低く抑えてきたことがそんなに決定的な問題だとは思いません。
――そもそも黒田東彦前総裁はどういう経緯で選ばれたのですか。
安倍元総理から「総裁候補のリストを作ってほしい」と、私にご下命があったのです。私の想像では、その時に安倍氏の頭にはすでに黒田氏のことが頭にあったのではと思います。