自分自身の思考や判断が入らないようにするには、「誰かの行動」だけに着目し、それをただ「誰々が~と発言した」「~の仕事の締切に間に合わなかった」のように淡々と客観的に書くのがいいでしょう。例えば、下記がその例です。
事実(誤):部下が反抗的な態度を取った、部下が自分の挨拶を無視した
事実(正):部下が「○○」と発言した、自分が「おはよう」と言った時に部下が何も反応しなかった
「(3)その時頭の中に思い浮かんだこと(思考)」には、頭に浮かんだ言葉をそのまま書きます。「(4)感情」には、怒り以外に他の感情も書くのがポイントです。そしてそれらが100点満点中何点くらいの強さだったのかを書きます。
この時、「怒り」以外に書かれた感情が、あなたの怒りを引き起こした別の感情である可能性があります(一次感情とも言われます)。
最後に、「(5)自分の中にあった期待や価値観」を書きます。一次感情(記入例の場合は「落胆」)を見ながら、「なぜ自分はこの時落胆したのだろう」「部下にどうしてほしかったのだろう」を考え、自分の中にあった相手への期待を書き出します。
最初は、自分の信念がどのようなものかわかるのに時間がかかるかもしれません。「信念・期待」を書き込むのは、1日の終わりに冷静になってから行うのがいいでしょう。
「(5)自分の中にあった期待」には、自分自身の価値観が反映されます。
例えば、「部下が目を見て挨拶しない」と怒りを感じた人には、「部下は目を見て挨拶すべきだ」という期待があります。また、「部下の報連相が遅くてイライラする」という人には、「部下は言われなくても積極的に報連相すべきだ」という期待があります。
こういった相手への期待の中で、特に「~すべき」「~なはず」「当たり前」「普通」「常識」という言葉は要注意です。信念として自分の中で大切にするには全く問題ないのですが、それを他者に押し付けるとパワハラにつながりやすいからです。
当たり前や常識は、人によって違います。自分の当たり前や固定概念を他者に押し付けていないか、確認するといいでしょう。
価値観や信念の押しつけが
パワハラにつながる
イライラした時は、自分の信念や価値観に気付くチャンスだと言えます。人は自分の期待が裏切られた時に、怒りという感情を覚えるからです。逆に言えば、「~すべき」という信念や、他者に「~してほしい」という期待をほとんど持っていない人は、怒りを感じる機会も少ないのです。
では、すべての信念や期待を手放せばいいのか、と思うかもしれませんが、その必要はありません(もちろん、極端な信念は手放した方が人生を楽に生きられることもあります)。私はむしろ、個人の信念や価値観、特に仕事に対するものは、生活に支障がないものであれば大切にしてほしいと思っています。自分がどういった信念を持っているか、価値観を大切にしているかを知って、まずは自分自身を認めてあげるのです。
津野香奈実著『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房)
というのも、個人が持つ信念は、その人がこれまで組織内で昇進したり、仕事をうまくこなしたりするのに役立っていたものであるはずだからです。それを否定してしまうことは、自分自身の仕事のやり方・生き方を否定することになりますので、その必要はないと思います。
しかし、その信念や価値観を人に押し付けることは避けるべきです。自分がそれを基に成功を収めたとしても、部下にとっても「正解」になるとは限りません。
パワハラ行為者(上司)のほとんどが、価値観や信念を一方的に部下に押し付けたがために、訴えられています。
自分の価値観は大切にしてほしいのですが、「部下にとって、その価値観が正解かどうかはわからない」「自分が大切にしている価値観を、相手も大切にしているとは限らない」ことを常に念頭に置くことが大事です。







